おしりかじり虫

シリカジリムシChoreftria shiranui Uyeno, 2022という寄生虫が記載されました。

 

鹿児島県出水市の干潟で採集されたチワラスボTaenioides snyderi Jordan & Hubbs, 1925のシリビレに寄生していた1個体の標本に基づき記載された新科新属新種のキクロプス目カイアシ類です。

 

体長1.3 mm、成体メス

 

和名は、NHKみんなのうた(2007年 歌詞・作曲:うるまでるび)にちなんだそうです。

 上野准教授(鹿児島大学)によると「親しんでもらえるような名前にしたいと思ったのがきっかけです。」とのこと。

 

 

 

<出典>

Uyeno, D., 2022. Choreftria shiranui, a new genus and species of cyclopoid copepod (Crustacea: Copepoda) associated with the worm goby from southern Japan, with the proposal of a new family. Systematic Parasitology, DOI:10.1007/s11230-021-10013-5

<備忘録>伊予灘におけるタイノエの長期調査結果

タイノエに関するすごい論文がでました(Ohtaniほか, 2021)。

論文の緒言にありましたが、タイノエって結構昔からしられている割に、生物学的あるいは生態学的知見って断片的なんですよね。

 

https://nobnob.hatenablog.jp/entry/32809789

 

Abstractと、ちょこっと読みかじった感じでは、次のような内容です:

2003年1月から2007年12年にかけて毎月、愛媛県伊予灘)で捕獲されたマダイ4,623尾について、寄生性等脚類Ceratothoa verrucosaタイノエの長期寄生虫調査が実施された。漁獲されたマダイは当歳魚から14歳魚であった。このうち寄生がみられたのは当歳魚から6歳魚、7歳魚以上では寄生は見られなかった。寄生率は宿主が当歳から5歳の場合、12.2%から21.2%の範囲であったが、6歳では3.4%に減少した(トータルでは18.6%:マダイ862尾で寄生が確認)。得られたタイノエは雄(7.7-36.6 mm)、雌(22.4-50.6 mm)で、体サイズは宿主の尾叉長と相関関係にあった。このことから、タイノエは宿主が当歳時に寄生し、宿主とともに成長し、寿命は最大6年と推定された。ほとんどの場合、タイノエは宿主口腔内壁に雌雄のペアで付着していた(最大のペアは雄36.6 mm・雌50.6 mm)。また、寄生を受けたマダイは上顎の変形と成長遅延がみられたが、寄生に関連した死亡の証拠はみられなかった。タイノエの主な繁殖期は夏であり、この時期、雌の育房にマンカ期が確認された。またこの論文ではChoricotyle elongataマダイヤツデムシ(扁形動物:単生綱)とタイノエの超寄生についても報告されています。

 

 

 

<文献>

Ohtani, T., Kawamoto, I., Chiba, M., Kurono, N., Matsuoka, S., & Ogawa, K., 2021. Ceratothoa verrucosa (Isopoda: Cymothoidae) infection in the buccal cavity of red seabream caught in Iyo-Nada, Western Japan, with some notes on its co-infection with Choricotyle elongata (Monogenea: Diclidophoridae). Fish Pathology, 56 (2): 43-52.

『海洋と生物』休刊

雑誌『海洋と生物』が今号をもって休刊となってしまいました。学生のころからの愛読書で、アミ、クーマ、ヨコエビ、エビ、ゾエア、フィロゾーマなど、この雑誌から得た知識は限りないし、今の私はこの雑誌がなかったらいなかったと思います。最近の等脚類の連載では、私の論文が引用されたり、私が提唱した和名が使われたりしていて、毎号楽しみにしていました。本誌の休刊は正直海洋生物学の衰退を招きます。いつか復活されることを節に願います。まずは、これまでありがとうございました。

実はサッパノギンカ!(Fujitaほか, 2021から)

 

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2018年3月、東伊豆のダイビングポイントでハタンポ属魚類の幼魚(ツマグロハタンポPempheris japonica Döderlein, 1884かミナミハタンポP. schwenkii Bleeker, 1855とされています)の頭部にウオノギンカ属のエガトイド幼体(ウオノエ類)の寄生がみられたことが報告されました(齋藤ほか, 2018)。100~200尾程度の群れの中、2~3尾の幼魚に寄生がみられたとのことです。ただ、発見者は22年間このフィールドで観察をつづけてきていますが、この寄生は初めて見られたとのことでした。

 

論文著者の齋藤は、このウオノエ幼体の事がずっと気になっていて、広島大学の研究者にDNA分析を依頼し、これがサッパノギンカAnilocra clupei Williams & Bunkley-Williams, 1986であることが分かったと、最近発表されました(Fujitaほか, 2021)。

 このウオノエ標本からDNAを抽出し、COI領域ならびに16S rRNA領域を調べ、BLAST分析したところ、ジーンバンクに登録されているサッパノギンカのDNA情報と、COIでは100%、16S rRNAでは98.44%の相同性がみられたとのこと。

 

ウオノギンカ属は世界から57種が知られ、このうち日本からはサッパノギンカとニザダイノギンカAnilocra prionuri Williams & Bunkley-Williams,1986の2種が知られますが、今回のウオノエとニザダイノギンカのDNAの相同性は91%未満だったとも記されています。

 

サッパノギンカはこれまでに、サッパSardinella zunasi (Bleeker, 1854)とウルメイワシEtrumeus micropus (Temminck & Schlegel, 1846)の体表、特に頭部周辺から報告されていました(Williams & Bunkley-Williams, 1986; Hataほか, 2017)。これらはともにニシン科です。なので今回の発見は、サッパノギンカのニシン科以外の魚からの初記録になるとのこと。ただ、ハタンポ属幼魚への寄生は2018年でしか見られていないことは、なんかけっこう気になります。

 

写真は、齋藤ほか(2018)のものを勝手に転載しました。叱られたら取り下げます。

 

 

 

<文献>

Fujita, H., Umino, T., & Saito, N., 2021. Molecular identification of the aegathoid stage of Anilocra clupei (Isopoda: Cymothoidae) parasitizing sweeper Pempheris sp. (Perciformes: Pempheridae). Crustacean Research, 50: 29–31.

Hata, H., Sogabe, A., Tada, S., Nishimoto, R., Nakano, R., Kohya, N., Takeshima, H., & Kawanishi, R., 2017. Molecular phylogeny of obligate fish parasites of the family Cymothoidae (Isopoda, Crustacea): evolution of the attachment mode to host fish and the habitat shift from saline water to freshwater. Marine Biology, 164: 105.

齋藤暢宏・会田幸宏・福田航平・山内健生,2018.ハタンポ属幼魚から得られたウオノギンカ属のエガトイド幼体(等脚目:ウオノエ科).Cancer, 27, 67–71.

Williams, E. H., & Bunkley-Williams, L., 1986. The first Anilocra and Pleopodias isopods (Crustacea: Cymothoidae) parasitic on Japanese fishes, with three new species. Proceedings of the Biological Society of Washington, 99: 647–657.

日本産十脚甲殻類の幼生(小西, 2012-2020)

隔月刊誌『海洋と生物』に掲載されていた、「日本産十脚甲殻類の幼生」(小西光一著)の連載が終了したので、勝手に目次を作っておきます。

Nob!!はカニのゾエアとかメガロパとか大好きなのです。

そしたら、230号(2017)が行方不明でしたぁ~ なんてこった! クモガニ類見たかったのにぃ(涙)

 

タイプミスとか見かけたらご一報ください。メンテしてまいります。

 

[2021.2.25加筆]

ゾエア研究者HTさんから、不足分のページ閲覧させていただきました。感謝!

 

 

~・~・~・~・~

 

日本産十脚甲殻類の幼生 目次

 

【1】概論

   海洋と生物, 202(2012): 470–478.

   コラム ケータイと形態 (p.479)

【2】成体の分類と目レベル概要

   海洋と生物, 203(2012): 570–575.

   コラム ゾエアの空似 (p.576)

【3】亜目・下目レベルの概要

   海洋と生物, 204(2013): 48–54.

   コラム ヘビの尻尾、エビの尻尾 (p.55)

【4】根鰓亜目(1)クルマエビ上科①

   海洋と生物, 205(2013): 160–166.

   コラム ゾエアの歯みがき (p.167)

【5】根鰓亜目(2)クルマエビ上科②

   海洋と生物, 206(2013): 234–238.

   コラム 紙の本と電子の本 (p.239)

【6】根鰓亜目(3)サクラエビ上科

   海洋と生物, 207(2013): 414–418.

   コラム ガリレオの顕微鏡 (p.419)

【7】根鰓亜目(4)発育段階と科の検索

   海洋と生物, 208(2013): 500–506.

   コラム 平成のワレカラ (p.507)

【8】抱卵亜目-オトヒメエビ下目 ドウケツエビ科。オトヒメエビ科、発育段階と科の検索

   海洋と生物, 209(2013): 606–611.

   コラム ステルス幼生 (p.612)

【9】コエビ下目(1)オキエビ上科、ヒオドシエビ上科、ヌマエビ上科

   海洋と生物, 210(2014): 76–83.

   コラム レイノルズの海 (p.84)

【10】コエビ下目(2)イトアシエビ上科

   海洋と生物, 211(2014): 203–208.

   コラム プルテウスは画架? (p.209)

【11】コエビ下目(3)テナガエビ上科

   海洋と生物, 212(2014): 308–317.

   コラム パピルスの描き心地 (p.317)

【12】コエビ下目(4)テッポウエビ上科、ロウソクエビ上科

   海洋と生物, 213(2014): 393–402.

   コラム 残暑に空蝉 (p.402)

【13】コエビ下目(5)タラバエビ上科、ウキカブトエビ上科、エビジャコ上科

   海洋と生物, 214(2014): 506–513.

   コラム 経済学者コペルニクス (p.513)

【14】コエビ下目(6)発育段階と科の検索

   海洋と生物, 215(2014): 634–641.

   コラム 多岐亡論 (p.641)

【15】アナエビ下目、アナジャコ下目

   海洋と生物, 216(2015): 75–80.

   コラム 図書館力 (p.81)

【16】ザリガニ下目、センジュエビ下目

   海洋と生物, 217(2015): 182–186.

   コラム 絵合わせの技 (p.186)

【17】イセエビ下目(1)イセエビ科(1)

   海洋と生物, 218(2015): 290–295.

   コラム 形と言葉 (p.295)

【18】イセエビ下目(2)イセエビ科(2)

   海洋と生物, 219(2015): 402–407.

   コラム ペン画とマウス画 (p.407)

【19】イセエビ下目(3)セミエビ科

   海洋と生物, 220(2015): 532–537.

   コラム メモにならないメモ (p.537)

【20】イセエビ下目(4)発育段階と亜科・属の検索

   海洋と生物, 221(2015): 652–659.

   コラム ぶら下がり禁則処理 (p.659)

【21】異尾下目(1)コシオリエビ上科、ワラエビ上科

   海洋と生物, 222(2016): 94–100.

   コラム ゾエア学のあゆみ–そのあけぼの (p.101)

【22】異尾下目(2)ヤドカリ上科①ツノガイヤドカリ科、ヤドカリ科、オカヤドカリ

   海洋と生物, 223(2016): 183–189.

   コラム 方丈のヤドカリ (pp.189–190)

【23】異尾下目(3)ヤドカリ上科②オキヤドカリ科、ホンヤドカリ

   海洋と生物, 224(2016): 299–304.

   コラム ゾエア学のわざ–大は小を兼ねる (pp.304–305)

【24】異尾下目(4)タラバガニ上科

   海洋と生物, 225(2016): 408–413.

【25】異尾下目(5)スナホリガニ上科

   海洋と生物, 226(2016): 578–582.

   コラム わかりにくい幼生–「その他」の落とし穴 (p.583)

【26】異尾下目(6)発育段階と科の検索

   海洋と生物, 227(2016): 708–712.

【27】短尾下目(1)脚孔群 コウナガカイカムリ上科、カイカムリ上科、ホモラ上科、マメヘイケガニ上科、アサヒガニ上科

   海洋と生物, 228(2017): 50–57.

   コラム ゾエア学のわざ–ゾエアは見た目が何割? (p.57)

【28】短尾下目(2)異孔亜群1 ヘイケガニ上科、カラッパ上科、コブシガニ上科

   海洋と生物, 229(2017): 152–159.

【29】短尾下目(3)異孔亜群2 クモガニ上科 クモガニ科・モガニ科・ケアシガニ科・ケセンガニ科

   海洋と生物, 230(2017): 244–251.

【30】短尾下目(4)異孔亜群3 ヤワラガニ上科、ヒシガニ上科、イチョウガニ上科、ヒゲガニ上科、クリガニ上科

   海洋と生物, 231(2017): 365–372.

【31】短尾下目(5)異孔亜群4 ワタリガニ上科、エンコウガニ上科、メンコヒシガニ上科

   海洋と生物, 232(2017): 483–490.

【32】短尾下目(6)異孔亜群5 オウギガニ上科、ヒメイソオウギガニ上科、アカモンガニ上科

   海洋と生物, 233(2017): 624–630.

   コラム 幼生のシルエットクイズ (p.630)

【33】短尾下目(7)異孔亜群6 ケブカガニ上科、カノコオウギガニ上科

   海洋と生物, 234(2018): 67–72.

   コラム ゾエアはいつ寝ているのか? (p.72)

【34】短尾下目(8)異孔亜群7 ヒメイソオウギガニ上科、イワオウギガニ上科、サンゴガニ上科

   海洋と生物, 235(2018): 157–164.

【35】短尾下目(9)異孔亜群8 ムツアシガニ上科、ユウレイガニ上科、イトアシガニ上科、ユノハナガニ上科、サワガニ上科

   海洋と生物, 236(2018): 246–250.

【36】短尾下目(10)胸孔亜群1 イワガニ上科1イワガニ科、トゲアシガニ科、ショウジンガニ科、オカガニ上科

   海洋と生物, 237(2018): 359–365.

   コラム ゲーテエボシガイに見たもの (p.365)

【37】短尾下目(11)胸孔亜群2 イワガニ上科2モクズガニ上科

   海洋と生物, 238(2018): 470–473.

【38】短尾下目(12)胸孔亜群3 イワガニ上科3ベンケイガニ上科、ホウキガニ科

   海洋と生物, 239(2018): 554–558.

【39】短尾下目(13)胸孔亜群4 スナガニ上科1スナガニ上科、コメツキガニ

   海洋と生物, 240(2019): 61–65.

   コラム ゾエア学のあゆみ–ネットの興隆 (p.65)

【40】短尾下目(14)胸孔亜群5 スナガニ上科2ミナミコメツキガニ科、ムツハアリアケガニ科、オサガニ科、メナシピンノ科.

   海洋と生物, 241(2019): 161–165.

【41】短尾下目(15)胸孔亜群6 サンゴヤドリガニ上科サンゴヤドリガニ科

   海洋と生物, 242(2019): 254–256.

【42】短尾下目(16)胸孔亜群7 カクレガニ上科1カクレガニ科1

   海洋と生物, 243(2019): 348–352.

【43】短尾下目(17)胸孔亜群8 カクレガニ上科2カクレガニ科2

   海洋と生物, 244(2019): 450–453.

【44】短尾下目(18)

   海洋と生物, 245(2019): 525–530.

   コラム ゾエアのおもて–図表現の難しさ (p.530)

【45】短尾下目(19)発育段階と科の検索2ゾエア(2)

   海洋と生物, 246(2020): 68–73.

【46】短尾下目(20)発育段階と科の検索3ゾエア(3)、メガロパ(1)

   海洋と生物, 247(2020): 165–169.

【47】短尾下目(21)発育段階と科の検索4メガロパ(2)

   海洋と生物, 248(2020): 252–257.

【48】短尾下目(22)発育段階と科の検索5メガロパ(3)

   海洋と生物, 249(2020): 379–383.

【49】形態の観察技法

   海洋と生物, 250(2020): 457–461.

【50】[最終回]研究小史

   海洋と生物, 251(2020): 559–563.

   コラム 分かるように分ける (p.564)