スベスベマンジュウガニ

イメージ 1

 このカニスベスベマンジュウガニAtergatis floridus (Linnaeus, 1767)というオウギガニ科のカニです。Kumikoさんに無理をいって標本を集めてもらいました。Kumikoさんみてますか? 感謝々々です。

 甲幅4cm程度の小さなカニで、名前のとおり、甲には目だった凹凸がなく、スベスベした可愛らしいカニです。Nob!!が所属していた大学のサークルでは「すべまん」と呼ばれていました。
 このカニ、実は毒ガニなんです。


▲▽・▽▲▽・ ・▽▲▽・ ・▽▲▽・ ・▽▲▽・ ・▽▲▽・ ・▽▲▽・▽▲

 昭和42年(1967年)に奄美大島北部の笠利(かさり)町で、カニ中毒のうたがいで中学生が死亡したことがきっかけで日本の毒ガニ研究がはじまりました。
 南西諸島を中心に8科72種約1000個体のカニが調べられ、ウモレオウギガニZosimus aeneus (Linnaeus, 1758)、スベスベマンジュウガニAtergatis floridus (Linnaeus, 1767)、ツブヒラアシオウギガニPlatypodia granulosa (Rüppell, 1830)の3種が毒ガニであるこが突き止められました。
 毒ガニの毒は、麻痺性貝毒PSP、フグ毒TTX、パリトキシンです。地域差や個体差が大きいですが、スベスベマンジュウガニPSPあるいはTTXを持つことが知られ、PSPの場合は数百~9000 MU/g、TTXでは100 MU/g未満で、両方の毒を兼ね備えるカニもあるそうです。
 MU/g(マウスユニット)は毒の強さの単位で、1 gの組織が、体重20 gのオスのマウス1匹を殺生する強さです。PSPによる人(体重60 kg)の最少致死量は約3000 MU/gなので、ウモレオウギガニの歩脚1本で5人が死に至る計算になります。

 毒ガニによる中毒は、主にみそ汁などのスープの具や汁として摂取したときに起こるそうです。磯採集でとれたカニを味噌汁として調理するのでしょう。危険ですのでくれぐれもこのような行為はおやめ下さい。

 南西諸島における毒ガニ中毒事例は1984年までに18件が知られていて、このうち、明らかにウモレオウギガニが原因とされる食中毒が7件、その4件で計6名の死亡者が出ています。ウモレオウギガニは毒ガニ3種の中でもっとも大型であり、中毒例も頻繁です。
 スベスベマンジュウガニによる食中毒の記録は不思議とありません。ツブヒラアシオウギガニによる食中毒は3件で、計3名が亡くなっています。

 その後の調査により、現在では15種のカニから毒性物質が検出されています。



[参考文献]
1)野口玉雄.1996.フグはなぜ毒をもつのか:海洋生物の不思議.221 pp.NHKブックス768,日本放送出版協会,東京.
2)塩見 一雄・長島裕二.2000.海洋動物の毒[増補改訂版]:フグからイソギンチャクまで.207 pp.成山堂書店,東京.
3)武田正倫.1992.カニは横に歩くとは限らない:甲らに包まれた不思議な仲間たち.236 pp.PHP研究所,東京.