アナジャコ

イメージ 1 アナジャコUpogebia major (De Haan, 1849)です。 大好きな甲殻類のひつです。このフォルム、たまりません。
 
日本産のアナジャコ類は、Itani2004)によってまとめられていますが、その後も、沖縄以西から新種が何種類かみつかっています。まだまだホットな分類群です。なんと、岩の中に孔ほって棲む種類が発見されているのです!(Komai, 2005;平野ほか, 2006
 
(奥野先生のサイト見て、刺激されました)
 
 
 
 
 
 
 
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  アナジャコUpogebia major (De Haan, 1849)は干潟の代表的な大型甲殻類で、50㎝~1mの巣孔を掘って穴居します。棲息地では干潟表面に多くの巣穴をみることができます。潮干狩りでアサリやハマグリ捕りを行うような環境にも多く、アサリ・ハマグリ漁業に被害を与えているのではないかと懸念されることもあります。
  写真のアナジャコ(成体、体長:76㎜、甲長:25㎜)は、広島市内の釣具店にて釣りエサとして販売されていたものを購入したものであり、産地等の情報は不明です。
 
○主な掲載図鑑など:
内海富士夫[原色日本海岸動物図鑑], 1956, p.63, pl.32, No.1.
三宅貞祥[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.632, No.1035.
三宅貞祥[学研生物図鑑水生動物], 1981, p.110, 194.
武田正倫[原色甲殻類検索図鑑], 1982, p.48, No.142.
Sakai [Revision of Upogebiidae], 1982, p.67, no.34, figs.15g-h, pls.B5,G3-4.
Holthuis [FAO Species Catalogue, 13], 1991, p.234, figs.433 
朝倉 彰[原色検索日本海岸動物図鑑(Ⅱ)], 1995, p. 342, pl. 91-8. 
峯水 亮[海の甲殻類, 2000, p.179. 
Itani, 2004, p.392, table 2.
 
形 態
  体色は灰褐色。背甲の鰓域は両側に膨張する。額角は幅広い三角形で先端は鈍く、3~4の黄色の小棘を備える。背甲背面は前方1/4は細く圧縮され、軟毛で覆われ、後ろ3/4は幅広い。頚溝は幅広く、浅く、側面は黄色の小棘を備える。背甲前方の額角の両側に平衡して縦走する隆起線が形成される。隆起線は細く、小棘列を備え、前半分は軟毛で覆われるが、後半分は軟毛が少ない。隆起線と背甲の間には正中線と平衡に深い溝が走る。前胸域の側面は小棘列がある。後胸域は頚溝に沿った棘列を備える。タラッシナ線は背甲後縁に達するが、浅溝である。
  眼柄は丸くて短い。第1触角柄部は短小で第1節は眼柄とほぼ等長、柄部:鞭部はほぼ1:1。第2触角柄部は3節で軟毛に覆われる。鞭部は1本で長く、柄部:鞭部は1:3。第3顎脚内肢内縁は長毛が密に覆う。
  第1胸脚は左右相称で、亜鉗脚。長節は背縁に棘を備え、腹縁に小刺列、その内縁に短い棘を備える。腕節は内面末端に大きい2棘を備える。背縁、外側末縁の上半分、及び腹側外側隆起線上に小刺列を備える。腹側末端の棘は鋭い。雄の掌部は雌よりも幅広い。背側は隆起線となり、全体に鋸歯を備え、末端には棘を備える。この内面に平衡した隆起線があり、これも鋸歯に覆われる。上方外側の表面は僅かに中程度の毛に覆われる。中央外側の表面は長毛列を備えるが、毛の分布は末方に偏る。下方外側の表面は長毛を備える。末端外縁には短歯を備える。腹縁の表面は歯と長い毛を備え、それは不動指の腹縁にまで続く。不動脂は短い、咬合面の根元には少数の棘を備え、腹面は滑らか。指節の先端は白い。雄では上部外側板に9~11の黄色い顆粒状突起があり、その内面は隆起線として尖る。上部外側板の上方には2つの毛列がありそれぞれ中央で合わさる。また、それぞれの基部付近は小棘列となる。内側背縁は顆粒を備えた隆起となる。内側の表面は背縁より下方に毛房の列を備える。そして中央付近に3つの大きな斜めの隆起を備える。咬合縁の根元付近に幅広い歯を備え、逆側の縁は滑らかである。雌では3条の隆起線が走る。第2~5胸脚は爪様。
  腹部は偏平、側甲はよく発達する。腹肢は雌5対・雄4対(雄は第1腹肢欠損)、雌雄とも第2~5腹肢は大型で葉状。
  尾肢は尾節とともに大きな尾扇を形成する。尾肢内肢は尾節とほぼ等長、後縁は大きく緩やかに湾曲する。尾肢外肢は内肢よりもわずかに長く、基部に棘を備える。基節には2棘を備える。尾節は長さよりも幅の方が広い、後縁は幅広く円い弧を描く。
 
生 態
  海産・底生性。内湾性の潮間帯の砂底部や干潟に穴居する。巣孔は深くて夏季は1m、秋冬季には50cmの浅い巣孔に移動する(三宅, 1982)。山口県内海水産試験場所蔵のポリエステル樹脂によって型どられたアナジャコの巣型(1989年5月23日,山口市秋穂二島の長浜の干潟,浜野龍夫採集・作成)は干潟表面下260㎝で、深さ465㎝に達すると推測されている(浜野, 1990)巣孔は「U」字型または「Y」字型で、1つの巣孔に1個体または雌雄のつがいで生息する(朝倉, 1995)。巣孔中の海水を腹肢で流れを起こし、口器周辺に密生する羽状毛により海水中に含まれる微生物や有機物の残査を摂食する(三宅, 1982)。積極的に巣穴内に海水をとりこむため(和田, 2000)、おそらくは二枚貝類とともに、干潟の浄化機能に寄与しているものと思われる。
  産卵期は10下旬から12月下旬までの約2カ月、産卵盛期は11月中旬。孵化期は12月下旬から4月上旬までの約3カ月、孵化盛期は2月中旬。抱卵期間は約100日間(坂本他, 1984)。
  外子(そとご:卵房)保有個体の平均値は、甲長29.6㎜、体長8.5㎜、体重12.4g、全卵重2.9230g、卵数87×103粒、卵径875×818μm、卵重比18.6%(坂本他, 1984)。
  着底幼生は、中大砂や礫が少なく、小砂から微細砂が7080%を占め、泥分が10%程度含まれる様な底質を好み、表面に円形で深さ5~6㎝の巣孔を作って生息する(坂本他, 1987)。稚アナジャコは10月下旬ごろに移動する(坂本他, 1987)。
  生息場所は成長段階によって異なり、地盤高、地形、河川等と関係して分布する。浮遊幼生は親アナジャコが生息している場所付近の浅海に多く、海底付近で浮遊生活を行う。着底幼生は、岸近くで波静かな泥や細砂が多い底質の場所に巣孔をつくりその中で生活を行うが、容易に巣孔を作りなおす行動も観察されている。稚アナジャコは、着底幼生とおなじ場所にもいるが、より親アナジャコの生息環境に近い所に移動して穴居生活を行う。若アナジャコは、親アナジャコの生息環境付近に穴居生活し、成長に従って順次親アナジャコの生息場所に移動する。親アナジャコは、潮間帯の干潟から浅海に生息し、干潮線付近の浅海、干潟に多く生息する(坂本他, 1987)。
  寿命は、5才までの現存は確認されているので、これ以上と考えられている(坂本他, 1985)。
 
幼 生
  十脚類幼生として一般的なゾエア幼生で孵化する。アナジャコ科の幼生の特徴は、1)腹肢が第1ゾエアから出現していて、2)第1顎脚の底節に2本の比較的大きな羽状毛を備え、3)尾節が中央突起を欠き、4)背甲の額棘は普通に発達する等である(小西, 1997)。
  アナジャコの幼生期については、飼育実験下の結果によると、3期のゾエア幼生と1期のメガロパ幼生(原文ではデカポディット幼生)を経ることが明らかにされている(Konishi, 1989)。この実験によると、塩分濃度35ppt、水温15℃の条件下で、孵化からメガロパ幼生まで1416日を要した。第1ゾエアは3~4日間;甲長1.081.10㎜(平均1.09㎜)、第2ゾエアは4~6日間;甲長1.091.20㎜(平均1.13㎜)、第3ゾエアは4~6日間;甲長1.271.32㎜(平均1.30㎜)、メガロパは甲長1.131.22㎜(平均1.18㎜)であった。なおこの研究ではメガロパ以上の変態は観察されていない(Konishi, 1898)。
  ソリネットの調査により、浮遊幼生は2月中旬に多く、4月下旬までみられ、3月上旬に急減す結果が得られている(坂本他, 1985)。25㎝×25㎝×深さ10㎝のコドラート法の調査によると着底期は3月上旬から4月下旬、盛期は3月下旬と推察される。着底密度は最高864尾/㎡(坂本他, 1987)。
  甲長(CL0.40㎝、体長(BL0.93㎝、体重(BW0.02gの着底幼生が脱皮変態して、雄CL0.52㎝、BL1.40㎝、BW0.07g、雌CL0.53㎝、BL1.40㎝、BL0.08gの稚アナジャコとなる(坂本他, 1987)。
 
共生生物・寄生虫
  博多湾有明海等では胸部腹側第2・3胸脚基部に二枚貝のマゴコロガイPeregrinamor ohshimai Shijo が付着し、鰓室には等脚類のマドカアナジャコヤドリムシMetabopyrus ovalis Shiino, 1939が寄生、十脚類のシタゴコロガニAcmaeopeura sp.は腹部にぶら下がるように付着することが知られる(三宅, 1982Kato & Itani, 1995;伊谷, 2001)。
  また、アナジャコ類の巣孔はアナジャコの活動によって酸素を含んだ直上水が循環しており、干出時にも内部に水をたたえているため、多くの生物によって利用される。日本の穴居性共生動物相がもっともよく調査されているのはアナジャコであろう(伊谷, 2001)。アナジャコの巣穴からは、これまでにかいあし類のHemicyclops gomsoensis Ho & Kim, 1991、十脚類のクボミテッポウエビChelomalpheus koreanus Kim, 1998、トリウミアカイソモドキAcmaeopleura toriumii Takeda, 1974二枚貝のクシケマスホVenatomya truncata (Gould, 1861)、多毛類のアナジャコウロコムシHesperonoe sp.、ハゼ科魚類のヒモハゼEutaeniichthys gilli Jordan & Snyder, 1901の同居が確認され、ハゼ科魚類のビリンゴGymnogobius breunigii (Steindachner, 1880)が産卵室として利用する。
 
分 布
  北西太平洋に分布し、本邦では北海道から九州の両岸、シベリア南東沿岸・ロシア・オルガ湾南方・朝鮮海峡・中国北部・千島列島・黄海・台湾からも知られる(三宅, 1982Holthuis, 1991)。
 
備 考
  アナジャコは漢字では「穴蝦蛄」と記し、穴の中に棲むシャコを意味するものと思われる。英名は”Mud lobster”あるいは”Burrowing prawm”で、それぞれ「泥海老」「穴堀蝦」の意味。ちなみにFAO name Japanese mud shrimpタラッシナ上科の「タッラシナ」とは、ギリシア語の”thalassa:海”に、属名の”upogebia”は「大地の下の生命」の意味との意見がある(荒俣, 1991)。
  マダイ・スズキ・カレイ等の釣り餌として、丸刺しにして一本釣り・延縄等に用いられる(三宅, 1982)。金沢八景では、春先に痩せダイを釣るのにアナジャコの類を餌にしていたという(荒俣, 1991)。ちなみに同じタラッシナ上科のスナモグリも釣り餌として「ボケ」という名で用いられる。
 
 
[引用文献]
 
以下原図
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