カニエラエボシ

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カニエラエボシ Octolasmis neptuni (MacDonald, 1869) です。
(kamakaさま、ご教示ありがとうございます)

昨日、uni2さんから画像を見せて頂きました。瀬戸内海のある港では、大型のガザミに、比較的普通にみられるそうです。
実に興味シンシンです。

学名でweb検索すると189件ヒットしましたが、和名「カニエラエボシ」でググると0件でした。
新日本動物図鑑にも掲載される、古くから知られるエボシガイですが、かなりマイナーなようです。
(そういったところがそそります)

カニエラエボシは1937年にはOctolasmis loweiに同定さていたようです(弘 冨士夫[日本動物分類,完胸上目I], 1937)。その後発表された「原色動物大図鑑(検法廖1961)や「新日本動物図鑑(中)」(1965)などの図鑑ではOctolasmis neptuniとされています。
この2種は大変近い種類のようです。

台湾にはこの2種とも報告され(Chanほか, 2009)、検索表を見ると、背板tergumが“U”字形なのがO. lowei、不定形なのがO. neptuniとなるそうです。
弘(1937)や図鑑の図を見ますと、、、 ん~微妙です。馬蹄形のように画かれています。
Uni2さんから送られてきた写真は、U字形してないので、O. neptuniでいいと思います。

そんな経緯で、日本の種類はO. neptuniとされていますが、Chanほか(2009)はこの経緯を知らないみたいで、O. loweiのほうの分布に“Japan”って記述さていました。

(追記):よく読んだら、弘(1937)には注釈があり、O. loweiとO. neptuniはO. loweiの変種と考えているようでした。イセエビ類に付くものはf. lowei、ガザミ類に付くものはf. neptuniと大別出来ると記述されていました。後にそれぞれを種と認め、図鑑に反映したようです。


カニエラエボシの国内の分布は、図鑑を見ますと「本州北部から九州にいたる」とあります。webで全くヒットしないのに、この分布... 出典を当たりたいと思います。




学生の頃読んだ、「カニは横に歩くとは限らない」(武田正倫,1992)のカニの鰓に関する記述に、「えらには小さなエボシガイフジツボの仲間)や寄生性の小型甲殻類などがついていることが多いが、それが人間にうつるはずはない」(p170)というくだりがあり、これを読んで以来気になってしかたがありませんでした。uni2様に感謝!!



この日、別件でエボシガイ類(ウスエボシ属Octolasmis)に関する質問を受けました。こちらはまた別の機会に話しますが、一日に2度もエボシガイ類の話をするなんて、人生初のことだったので、これはお天道さまからの何かの啓示かもしれないと身をただし、ウスエボシについて改めて調べてみようと思ったり思わなかったりといった不思議な一日でした。



さっそくkamakaさんから文献情報をいただきました。net調べると、昨年発表されたばかりのホヤホヤの論文でした。オノガタウスエボシに関する論文のようです。取り寄せネバ:
Yusa, Y., Takemura, M., Miyazaki, K., Watanabe, T. & Yamato, S. 2010. Dwarf males of Octolasmis warwickii (Cirripedia: Thoracica): the first example of coexistence of males and hermaphrodites in the suborder Lepadomorpha . Biological Bulletin, 218: 259-265.
http://www.biolbull.org/cgi/content/abstract/218/3/259


また、ウスエボシの学名でweb検索したら、こんな論文もヒットしました:
Jeffries, W. B., Voris, H. K., Naiyanetr, P. & S. Panha. 2005. Pedunculate barnacles of the symbiotic genus Octolasmis (Cirripedia: Thoracica: Poecilasmatidae) from the northern Gulf of Thailand. The Natural History Journal of Chulalongkorn University 5(1): 9-13.
http://www.thaiscience.info/Article%20for%20ThaiScience/Article/5/Ts-5%20pedunculate%20barnacles%20of%20the%20symbiotic%20genus%20octolasmis%20(cirripedia-%20thoracica-%20poecilasmatidae)%20from%20the%20northern%20gulf%20of%20thailand.pdf



2011.3.14加筆
本日uni2さまから標本が届きました。ガザミにつく全個体を送っていただけたようです。本当にありがとうございました。

2011.5.19加筆
遊佐陽一先生から論文別刷りをいただきました。ありがとうございました。早速勉強させて頂きます。