チョウArgulus japonicus

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 チョウ Argulus japonicus Thiele, 1900です。淡水産魚類の外部寄生虫です。

Sbclass BRANCHIURA 鰓尾亜綱
 Order ARGULOIDA チョウ目
  Family ARGULIDAE チョウ科

 1cm以上もあり、また、腹部が比較的大きいので、最初チョウモドキ Argulus coregoni Thorell, 1865 と思っていたのですが、水族寄生虫学者の長澤先生から、「チョウの可能性があります」と御指摘があり、チョウモドキの特徴を御教示いただきました。
 さっそく標本を調べたところ、チョウモドキの特徴がみられず、この標本がチョウであることがわかりました。

 長澤先生はチョウ類の情報と標本の収集をされています。もし、協力できる方がおられましたら、直接先生に御連絡ください(↓) Nobも収集品の一部を寄贈することにいたしました。
 http://home.hiroshima-u.ac.jp/aquacult/jpn-staff.html
(御名前の少し下にメールアドレスの記載があります)

 図鑑の記載によると、チョウの体長は3~6mmとされているので、かなりデカいって印象でした。これまで2~3回、プランクトンとしてチョウを採集したことがありますが、いずれも2~3mm程度の大きさだったので、今回のものが同じ種類とは考えもしませんでした。

○主な掲載図鑑など:
時岡 隆[原色動物大図鑑(検法, 1961, p.126, pl.63, No.10.
時岡 隆[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.504 , No.603 .
上野益三[日本淡水生物学], 1973, p.455, fig.20-61.
武田正倫[原色甲殻類検索図鑑], 1982, p.247, No.751.


 東京都内の某K池の調査で、ゲンゴロウブナとギンブナが採集されたとき、同時に2個体採集されました。
 活きがよかったのでしばらくシャーレで飼育していたら、卵を産みまくっていました(下の写真)
 とにかくせわしなく泳ぎまくっていた2個体で、ゆめえび様の「ミズスマシのよう」っていう表現はビンゴですね!

●2007.5.15:東京都内K池で2個体採集
●5.16:1個体が脱皮
●5.18:シャーレの壁面に産卵。数日間続いたようである
●5.21:週明けには2個体とも死亡。標本にしました(上の写真)。

 生存期間(飼育できた期間)はわずか一週間でした。それでもこの期間、宿主からの栄養補給もないまま、ひたすら産卵しまくったのでしょうか? 宿主から離れた状態でも3~5日間は生存可能だそうです。

 卵塊はカーペット状(下の写真の右側の卵塊)やライン状(同左側)で、最終的にはシャーレ壁面を縦横無尽に張り巡らせるって状態でした(写真は産卵が確認された初日に撮影されたもの、最終的な状況では、事件現場に張られた”Keep Out”ってロープのような感じになっていました(笑))

 今回の私の観察結果(ってほどのものでもないけど)は、コメントいただいたゆめえびさんの知見におおむね一致するモノでした(ただし、ゆめえびさんの見解はチョウモドキによるものです)。


 なお、チョウモドキについてはかなりまとまった研究があるようです;
 東京都水産試験場奥多摩分場でヤマメを実験魚として、チョウモドキの生活史、寄生部位、病害性などに関する一連の研究がなされているそうです。
(参考文献のno.7~13、これらの文献まだ持っていません)


 また、近畿大学水産研究所新宮実験場でのチョウモドキの寄生状況が詳しく報告されています。
(参考文献のno.5・6、これらはwetから入手できました)

 この実験場では飼育魚のアマゴ、ニジマス、アユの3魚種に寄生がみられるそうです。
 特にアマゴに対する寄生は、1982年から確認され、毎年観察されています。
 1995年7月14日の調査では、アマゴへの寄生率は100%(調査104尾)で、1魚に対する寄生個体数は9~213個体(平均39.6個体)だったそうです。




[参考文献]
1)Hoshina, T. 1950. Uber eine Argulus-Art im Salmonidenteiche. Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries, 16: 239-243, 3 figs.
*2)井上 潔・志村 茂・斉籐 実・河西一彦.1980.トリクロホンによるチョウモドキの駆除.魚病研究,15:37-42.
*3)石井吉夫.1979.チョウモドキの駆除.昭和53年度愛知県水産試験場業務報告:170-172.
4)菊池知彦.1997.チョウ類(鰓尾目).In日高敏隆監修・奥谷喬司・武田正倫・今福道夫編集.日本動物大百科第7巻:無脊椎動物.pp.126,130.平凡社,東京.
5)長澤和也・大家正太郎.1996.池中飼育アマゴに寄生したチョウモドキ.近畿大学水産研究所報告,5:83-88.
6)Nagasawa, K. & Ohya, S. 1996. Infection of Argulus coregoni (Crustacea : Branciura) on Ayu Plecoglossus altivelis Reared in Central Honshu, Japan. Bulletin of the Fisheries Laboratory of Kinki University, 5: 89-92.
*7)Shimura, S. 1981. The larval development of Argulus coregoi Thorell (Crustacea: Branchiura). J. Nat. History, 15: 331-348.
*8)Shimura, S. 1983. SEM observation on the mouth tube and preornal sting of Argulus coregoi Thorell and Argulus japonicas Thiele (Crustacea: Branchiura). Fish Pathol., 18: 151-156.
*9)Shimura, S. 1983. Seasonal occurrence, sex ratio and site preference of Argulus coregoi Thorell (Crustacea: Branchiura) parasitic on cultured freshwater salmonids in Japan. Parasitology, 86: 537-552.
*10)志村 茂・江草周三.1980.チョウモドキの産卵生態について.魚病研究,15:43-47.
*11)Shimura, S. & Inoue, K. 1984. Toxic effects of extract from mouth-parts of Argulus coregoi Thorell (Crustacea: Branchiura). Bull. Japan. Soc. Sci. Fish., 50: 43-47.
*12)志村 茂・井上 潔・河西一彦・斉籐 実.1983.チョウモドキの寄生に伴うヤマメの血液性状の変化.魚病研究,18:157-162.
*13)志村 茂・井上 潔・工藤真弘・江草周三.1983.ヤマメのせっそう病に対するチョウモドキの寄生の影響の検討.魚病研究,18:37-40.
*14)竹上俊也.1984.日置川のアマゴに寄生するチョウモドキについて.南紀生物,26:45-50.
15)時岡 隆.1965.鰓尾亜綱.In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修,新日本動物図鑑(中).pp.503-504, No.603-606.北隆館,東京.
16)Tokioka, T. 1936. Preliminary report on Argulidae found in Japan. Annotationes zoologicae Japonenses, 15: 334-341. 21 pls.
*17)Yamaguti S. & Yamasu, T. 1959. On two species of Argulus (Branchiura, Crustacea) from Jaoanese fishs. Biological journal of Okayama University, 5: 167-175, pls. I-II.
*:未収集文献