シダムシNEWS

このたび3種のシダムシが新種記載されました(Saitoら, 2024)。
シダムシというのはヒトデ類の体内に寄生する広義にはフジツボの仲間の甲殻類です。今回の報告で世界から39種が記載されたことになります。
いずれも紀伊半島周辺の漸深海帯から得られたヒトデから発見されています。形態的にもDNAからも既知種から区別されています(ただしDNAは既知5種しか知られていないようですが)。

ダンノシダムシDendrogaster danni Saito & Wakabayashi, 2024
宿主は和歌山県みなべ町沖水深100 mから採集されたアカモンヒトデNeoferdina japonica Oguro & Misaki, 1986。採集者はダンイチノスケさんという方で、学名と和名は採集者に献名されています。採集されたとき(2020年12月13日)はまだ小学生だったようです。

ヒメノシダムシDendrogaster tanabensis Saito & Wakabayashi, 2024
宿主は和歌山県田辺市地先沖200–300 mから採集されたヒメヒトデ属の1種Henricia sp.。学名は産地に、和名は宿主に由来するようです。tanabennsisとはなんと霊験あらたかな! 田辺は海洋生物研究のメッカで、この地名を冠した海洋生物はかなりいます(あとで調べますw)

カンムリシダムシDendrogaster jinshomaruae Saito & Wakabayashi, 2024
宿主は三重県熊野市・南伊勢町沖水深210–280 mから採集されたカンムリヒトデCoronaster volsellatus (Sladen, 1889)。学名の種小名は採集した漁船「甚昇丸」に、和名は宿主に由来するようです。
甚昇丸は採集者(著者の一人)である森滝さんが、『熊野灘漸深海帯生物調査』(森滝, 2020)で使われている漁船で、この調査で採集されて記載された新種は35種にのぼり、また船名を冠した深海生物はこれが3種目(マイナー種ばかりですが)とのことです。さすがは“新種ハンター”。
タイプ標本は、1つのパラタイプ以外、全て2021年3月24日に熊野市沖で採集された個体で、この時は84個体のヒトデを調査し(もっと多く採集されていたとのことですが)、このうち5個体からシダムシを発見。寄生率は6%となります。
1つのパラタイプは未成熟なメスで、水族館で2年間飼育して死亡したヒトデからみつかった個体です。カンムリヒトデからはじめてみつかったシダムシですが、未成熟個体とのことで、シダムシの成長がかなりゆっくりなのか、飼育中に寄生されたのか、だとしたらその経路はどうなっているのか、謎は深まるばかりです。

 

興味深いのはダンノシダムシとヒメノシダムシで、ヒトデ飼育中にヒトデの背中を突き破って水中に出現してきたというのです。採集者、とくにダン君は深海のヒトデの飼育を楽しんでいたでしょうから、かなりのショックをうけたのではないですかね? 同様にアカヒトデシダムシDendrogaster adhaerens Yoshimoto, Moritaki, Saito & Wakabayashi, 2020やユミヘリゴカクノシダムシD. tobasuii Saito Wakabayashi & Moritaki, 2020でもシダムシが宿主から出現する様子が観察されています。しかし、運動器官の無いシダムシがどうやって宿主の内壁を突き破るのか、ヒトデ体内でのみ生きられるシダムシがそこまでして海中に進出する行動が正常な生態なのか、飼育個体であるが故の異常行動なのか、こちらも謎です。なおこれまでにみられたこの行動をとったシダムシは皆体内にノープリウス幼生を持っていたとのこと。


●謎の集団 プロジェクトチーム“Shida-mushi”
この研究はプロジェクトチーム“Shida-mushi”によるものとのことです。このチーム名は2020年の論文でもみられます(Saitoら, 2020)。齋藤(2020)の図3にはGrygir博士(シダムシ研究のイキガミ様)とチーム“Shida-mushi”の記念写真が掲載されています。4人写っていて、左上がGrygir博士、右上が鳥羽水族館の森滝丈也さん(“新種ハンター”として各メディアに露出されてます)、右下の女性が若林香織さん、なので、左下が齋藤暢宏さんなのでしょう(この方はあまり見かけませんね)。Yoshimotoら(2020)の論文には明記されてませんが、著者と研究内容からして、このチームの研究なのでしょうね。齋藤(2020)でもシダムシ研究はこのチームの活動であることが記されていて、あらたに吉本明香里さんが国内9番目の種を記載中と紹介しています。
今回の論文で国内のシダムシが13種知られたことになりましたが、このうち7種はチーム“Shida-mushi”の活動によるものとなります。実に54%! とはいえ国内からは254種ものヒトデが知られているので(木暮, 2018)、探せばまだまだシダムシみつかりますね。ガンバレ!チーム“Shida-mushi”!

 

<論文>
木暮陽一,2018.日本近海産ヒトデ類(棘皮動物門ヒトデ綱)種名目録.日本生物地理学会会報, 73: 70–86.

森滝丈也,2020.熊野灘漸深海帯の無脊椎動物における水族館と研究者の連携.タクサ, 48: 34–40.

齋藤暢宏.2020.実録! シダムシの研究 ~続・アマチュア研究者新種記載顛末記~Cancer, 29, e142–e146.

Saito, N., Moritaki, T., Minakata K., & Wakabayashi, K., 2024. Three new species of sea star parasite Dendrogaster (Crustacea: Thecostraca) from Japan. Zootaxa 5405 (4): 577–590.

Saito, N., Wakabayashi, K., & Moritaki, T., 2020. Three new species of Dendrogaster (Crustacea: Ascothoracida) infecting goniasterid sea-stars (Echinodermata: Asteroidea) from Japan. Species Diversity, 25(1): 75–87.

Yoshimoto, A., Moritaki, T., Saito, N., & Wakabayashi, K., 2020. A new species of Dendrogaster Knipowitsch, 1890 (Thecostraca: Ascothoracida: Dendrogasteridae) parasitic in the sea star Certonardoa semiregularis (Müller & Troschel, 1842) (Echinodermata: Asteroidea) from Japan. Journal of Crustacean Biology, 40(6): 795–807.