エビノユタンポ

f:id:Nobnob:20201114113952j:plain

f:id:Nobnob:20201114114057j:plain

(標本は染色しています)

 

熊野灘の水深280 mから採集されたノコノハエビジャコの腹部から発見されたエビヤドリムシが、所属亜科不明の新属新種

Pleonobopyrus kumanonadensis Saito & Moritaki, 2020エビノユタンポ

として記載されました。

 

コエビ類の腹部に寄生するエビヤドリムシ類としてはコエビノハラヤドリ亜科Hemiarthrinaeが知られますが、本種は形態が大きく異なり、また寄生姿勢も腹部を宿主の腹部に向けあうという、特異な特徴がみられています(コエビノハラヤドリ亜科では、背面を宿主の腹面に付けます)。

また、エビジャコ類にはエビジャコヤドリムシ亜科Argeiinaeの寄生が知られ、Boykoの検索表ではこの亜科に落ちるのですが、差異を示す形質も多く、寄生部位も宿主の腹部(エビジャコヤドリムシ亜科は鰓腔)という違いがみられています。

エビヤドリムシ科は現在9亜科からなりあますが、これらを含み、全ての亜科との違いがみられ、所属亜科不明となっています。

 

エビノユタンポの記載論文は11/6にweb公開されているのですが、国際的なオンラインデータベースWoRMS(World Register of Marine Species)に即日反映されていました。

http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=1464950#attributes

WoRMSのアップデートは編集担当者のリサーチ力に左右されている気がします。

しかし、なぜかPseudioninae亜科の所属とされています。論文中でPseudioninae亜科との関係について議論されていますが、差異もみられているため、これらの関係は不明とされています。

 

宿主のノコノハエビジャコPrionocrangon dofleini Balss, 1913は『新日本動物図鑑(中)』(1965)ではメクラエビとされています。あまり採集されないレアなエビのようで、「熊野灘漸深海帯生物調査」でも、このときはじめて採集されたと記されています。林(2015)で和名は改称されていますが、あまり浸透していないようで、オンラインデータベースBISMaL(Biological Information System for Marine Life)でも「メクラエビ」の名前が使われています(2020.11.14現在)。

https://www.godac.jamstec.go.jp/bismal/j/view/9026104

 

エビノユタンポという和名は、寄生した状態が宿主エビが腹部に湯たんぽを抱えているように見えることに由来しているのだと思います。

なお、この記載論文は、日本甲殻類学会の学会誌『Crustacean Research vol.49』に掲載されるのですが、この号、ヤドリムシ関係の論文が3報、4種が記載されるようです。ヤドリムシの時代が来てるみたいです。

 

 

<論文>

Saito, N. & Moritaki, T., 2020. Pleonobopyrus kumanonadensis gen. et sp. nov. (Crustacea, Isopoda): A new bopyrid infesting the crangonid shrimp, Prionocrangon dofleini (Crustacea, Decapoda, Caridea). Crustacean Research, 49: 197–202.