Acanthoserolis schythei (Lütken, 1858)オニジリスナコバンムシ、A,背面;B,腹面.スケール=10 mm(齋藤・佐々木, 2023より)
島根県のスーパーの鮮魚売り場でセロリスが見つかったという報告(齋藤・佐々木, 2023)を見つけました!
セロリスSerolisというのは、コツブムシ亜目等脚類のグループで、とにかくそのフォルムがかっこいい! Nob!!は学生のころ『動物系統分類学, 7(上):節足動物(I)総説・甲殻類』(椎野, 1964: 214)でその姿をみて、もう大ファンですよ! それがなんと卒業研究のプランクトン試料に1個体だけ入っていて大興奮でした。
あ、セロリスは主に南極周辺に繁栄している甲殻類で(Sheppard, 1933)、北半球にも数種しられますが(蒲生, 1991, 1994)、日本からの記録はありません(布村・下村, 2015)。Nob!!の卒業研究も、南大西洋の動物プランクトンに関するものでした。
今回スーパーで見つかったのは、Acanthoserolis schythei (Lütken, 1858)という種で、やはり南大西洋寒海域のフォークランド諸島に分布する種とのことです。
東シナ海産のソウハチCleisthenes pinetorum Jordan & Starks 1904の無眼側の鰓から見つかったそうですが、齋藤・佐々木(2023)では、水揚げ後の輸送中に輸入水産物に混ざっていたものが入り込んだのではないかと考察しています。このことを職場で話したところ、「ソウハチは漁獲時にもう死んでいたのではないか、等脚類もボロボロで死んでいただろうから、接触したくらいで鰓に入り込むなんてありえないのでは?」という意見がありました。確かに! この論文の英語タイトルがA mysterious record ... ていうのがなんか妙に面白い。
セロリスには「スナコバンムシ」という和名が提唱されているのですが(蒲生, 1994)、この報告以外で見たことがありません。布村・下村(2015)なんて、同じ雑誌に掲載された報告なのに、この和名は使われていませんでした。“スナコバンムシ”でググってもヒット無し(2023.10.6)。ほかの検索エンジン使うとちょっと惜しい名前の昆虫がヒットします。
齋藤・佐々木(2023)では、蒲生(1994)の和名を継承し、本種にオニジリスナコバンムシを提唱していました。
職場で言われたように、セロリスが鰓に入り込む過程には謎があります。むしろ、実は東シナ海にひそかな分布域があるのか? この報告を期に、そういった情報があつまっても面白いかもしれません。
この報告にあるように、セロリスについては、Sheppard(1933)という100ページを超える Discovery Reportsの報告があります。お、これはどこかで見ないとと思ったら、コピーがNob!!の書棚にありました。学生時分に入手したの、すっかり忘れていたのです。なんかショック! でも見れて勉強になりました。1970年代にはMoreiraさんという方がセロリスについて何報か論文書かれているようです。netでいくつか入手できます。
小型甲殻類研究者の蒲生重男先生も、やはり興味があったようで、国立極地研に保管されていた標本11個体を調査し、4種を報告されています。このときは「セロリス」というカナ読み表記でしたが、1994年、雑誌『海洋と生物』の表紙にこのうちの1種を紹介し、このグループに「スナコバンムシ」という和名を提唱されているのです。
蒲生(1991)からの孫引きですが、北半球から知られる数種とは以下の5種:
太平洋産1種
Heteroserolis carinata (Lockington, 1877)(体長5 mm) カリフォルニア沖(水深13–55 m)
大西洋産4種
Atlantoserolis menziesi (Hessler, 1970)(体長9 mm) ブラジル寄りの赤道付近(水深834–1493 m)
Atlantoserolis vemae (Menzies, 1962)(体長4.3-6 mm) バミューダ諸島近海(水深834–5024 m)
Serolis agassizi George, 1986(体長3 mm) ノース・カロライナ沖(水深3840–3975 m)
Serolis mgrayi Menzies & Frankenberg, 1966(体長40 mm) 北米ジョージア沖(水深33–40 m)
Nob!!のセロリス愛がとまりません。もっともっと等脚類勉強つづけます!
<文献>
蒲生重男,1991.日本南極観測隊によって採集されたセロリス科 Serolidae の等脚類 (甲殻綱, 等脚目, 有扇亜目) の 4 種類について.横浜国立大学理科紀要. 第二類, 生物学・地学, 38: 1–21.
蒲生重男,1994.南極海産オナガスナコバンムシ(新称)Serolis (Ceratoserolis) meridionalis Vanhöffen, 1914.海洋と生物, 95: 表紙+表紙裏.
Moreira, P.S., 1971. Species of Serolis (Isopoda, Flabellifera) from southern Brazil. Boletim do Instituto Oceanográfico, Sao Paulo, 20: 85–144.
齋藤暢宏・佐々木隆志,2023.水産物に混入していたオニジリスナコバンムシ(新称)(甲殻亜門・等脚目).うみうし通信, 120: 10–11.
Sheppard, E.M., 1933. Isopoda Crustacea Part I. The family Serolidae. Discovery Reports, 7: 253–362, pl 16.