ついに決着! サヨリヤドリムシ

みなさま、GWいかがお過ごしですか? Nob!!はそこそこ忙しく過ごしております(ってほどでもないかな?)

 

ところで!
Bruce(1986)が記載した、日本産サヨリHyporhamphus sajori (Temminck & Schlegel, 1846)の鰓腔寄生性エラヌシ属ウオノエ類の2種、ブリエラヌシMothocya parvostis Bruce, 1986とサヨリヤドリムシMothocya sajori Bruce, 1986。ほんとに別種なの? ってずっと言われつづけてきましたが、ここに一つの結論がでました!
Fujitaら(2023)!
広島大学のグループが、これらは同一種と結論いたしました!

 

富山市科学博物館に所蔵されるブリエラヌシのパラタイプ2標本とサヨリヤドリムシのパラタイプ1標本、そして全国から集めた369尾のサヨリの鰓腔から得られたエラヌシ属635個体の形態観察とDNA分析を行い、これらに別種ほどの違いが無いことを確認されたのです。

 

ブリエラヌシとサヨリヤドリムシについては、タイプ記載(Bruce, 1986)では次のような違いがあるとされています。(左がブリエラヌシ、右がサヨリヤドリムシ)

・メスの体長:  平均12.1 mm(11.0~15.0 mm) / 平均23.4 mm(20.0~27.5 mm)

・体の屈曲度合: 弱い  / 強い

・眼の大きさ:  大きい / 小さい

・底板の形:   丸い  / 細長い

・第7胸節後縁: 浅く窪む / 深く窪む

これら形態を集めた標本について観察すると、両種のパラタイプ間では確かに明瞭に異なりますが、多くの個体を観察することによって、これらの違いは種内変異と結論され、特に体の屈曲度合と眼の大きさは、体長との間に有意な相関(体が大きいほど、これら特徴も大きくなる関係)が確認されました。

 

DNAについては、集めたサヨリ寄生性エラヌシ属のうち329個体について、COI領域と16S rRNA領域の分析を行い、これらはエラヌシ属他種から独立した一つのクレードを形成する結果が得られています(遺伝子的に一つのグループにまとまり、表現あってますかね?)。ただ、この分析では、ブリエラヌシとサヨリヤドリムシのパラタイプ(博物館登録標本)のDNAは分析できなかったようで(あたりまえですけどね!)、その点ちょっと残念ですね。

 

この論文によって、本種の有効名は、国際動物命名規約(ICZN)の Article 24に基づき、Mothocya parvostis Bruce, 1986となり、もっとも普及している和名「サヨリヤドリムシ」を標準和名として継承する的な考察がなされています。

よって横山・長澤(2014)によって提唱された和名「ブリエラヌシ」は無効名となりました。Nob!!的にはサヨリ寄生種にこの和名はないよなって思っていたので、めでたしめでたしです。なお、Nagasawa(2020)は、「ブリエラヌシ」の命名を失念していて、「サヨリノオジャマムシ」という和名をダブって考案されていますが、この件は北大の川西先生から指摘があり、長澤(2020)で訂正されています。

 

しかし、論文の謝辞にはNiel L. Bruce博士のお名前があり、この論文の校閲をされたようですが、ご自身が設立した2種を統合する論文の校閲って、どんなお気持ちだったですかね?

 

 

 

<文献>

Bruce, N. L., 1986. Revision of the isopod crustacean genus Mothocya Costa in Hope, 1851 (Cymothoidae: Flabellifera), parasitic on marine fishes. Journal of Natural History, 20: 1089–1192.

Fujita, H., Aneesh, P. T., Kawai, K., Kitamura, S.-I., Shimomura, M., Umino, T., & Ohtsuka, S., 2023. Redescription and molecular characterization of Mothocya parvostis Bruce, 1986 (Crustacea: Isopoda: Cymothoidae) parasitic on Japanese halfbeak, Hyporhamphus sajori (Temminck & Schlegel, 1846) (Hemiramphidae) with Mothocya sajori Bruce, 1986 placed into synonymy. Zootaxa, 5277 (2): 259–286.

Nagasawa, K., 2020. Mothocya parvostis (Isopoda: Cymothoidae) parasitic on Japanese halfbeak, Hyporhamphus sajori, in the central Seto Inland Sea, Japan, with a brief summary of the hosts, geographical distribution, and pathogenic effects of the isopod. Nature of Kagoshima 47: 51–57.

長澤和也,2020.北海道日本海沿岸域で漁獲されたサヨリに寄生していたエラヌシ属等脚類.Nature of Kagoshima 47: 75–79.

横山 博・長津和也,2014.養殖魚介類の寄生虫の標準和名目録.生物園科学, 53: 73–97.

 

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2023.11.4加筆

 

WoRMSでも本件が反映されていました。

Boykoによって5月2日に修正がなされたようです。

WoRMS - World Register of Marine Species - Mothocya sajori Bruce, 1986