ホソウオノシラミ

山の日の祝日ですが、海ネタひとつ。恐縮です。

 

アクアマリンふくしま(AMF)で展示し、あまりにもお寿司似でバズッたあの等脚類、その種同定できたという論文が公表されました(齋藤ほか, 2023)。

 

ホソウオノシラミRocinela angustata Richardson, 1904とのことです。

 

日本既知種で、すでに北海道から記録されるので(AMFのは北海道羅臼産)、ちょっと新規性に乏しいように思ったのですが、あのようなマイナーな甲殻類の飼育記録を詳細にまとめ、またDNAについても分析した報告は、逆に貴重なのかもしれません。

 

特にDNA分析結果は興味深いものです。ジーンバンクにはすでに3個体のホソウオノシラミのCOIが登録されているのですが、これとAMFのCOIを比較したところ、これらは少なくても3種の別種ということが分かったのです。ホソウオノシラミのような特殊な(?)分類群では、誤同定されたままジーンバンクにDNAが登録されている可能性があるということで、DNAの照合だけで種同定することの危険性が露見されたような結果です。

 

また、この論文ではジーンバンクに登録されるすべてのグソクムシ科と今回AMFで飼育したホソウオノシラミ、ほかタラノシラミRocinela maculata Schioedte & Meinert, 1879のCOIを用いて系統樹を作成しているのですが、ジーンバンクには25個体しか登録がなく、このうち種同定されたDNAは6種16配列ということも明らかになりました(登録されるのはAega psora(Linnaeus, 1758)、Alitropus typus H. Milne Edwards, 1840、ホソウオノシラミ、ニッポンウオノシラミRocinela niponia Richardson, 1909、Rocinela tridens Hatch, 1947、トガリオニグソクムシSyscenus infelix Harger, 1880)。グソクムシ科は8属147種からなる大きなグループですが、DNA情報があまりにも寂しい現状に驚きました。ウオノエ類とは大違いです。Nob!!の手許にはいくつかのグソクムシ類の標本があるので、機会があったらこれらのDNAを調べて、この系統樹を補足してみたと思います。

それでもこの27配列と外群2種からなる系統樹からはいろんな関係が見えてきます。ホソウオノシラミとして登録されたDNAが実は3種というのも意義ある結果ですが、グループ9にまとめられたAegidae sp.1にはホソウオノシラミ(EF432739)とRocinela sp. (MG312494)が含まれ、クレードの位置からみてもウオノシラミ属とみるのが妥当と思われる点も興味深いです(論文の中では触れられていません)。また、外群としてウオノエ科のホラアナゴノエElthusa sacciger(Richardson, 1909)のCOIを用いていますが、これがウオノシラミ属のグループにつながる結果にも興味があります。本種はウオノエ科の中でもっとも古い種とされていますが(Hataほか, 2017)、グソクムシ科のウオノシラミ属も、ホラアナゴノエから分岐したのかもしれません。グソクムシ科のDNA情報を蓄積し、ウオノエ科との関係も詳細に比較して、この件について考察できたらと思おうと、興奮冷めやらぬ感じです。

齋藤ほか(2023)によるグソクムシ科の系統樹

 

 

<文献>

Hata, H., Sogabe, A., Tada, S., Nishimoto, R., Nakano, R., Kohya, N., Takeshima, H., Kawanishi, R., 2017. Molecular phylogeny of obligate fish parasites of the family Cymothoidae (Isopoda, Crustacea): evolution of the attachment mode to host fsh and the habitat shift from saline water to freshwater. Mar. Biol. 164:105. DOI 10.1007/s00227-017-3138-5

齋籐暢宏・柳本 卓・日比野麻衣,2023.北海道羅臼沖で採集されたホソウオノシラミRocinela angustata Richardson, 1904(甲殻亜門・等脚目・グソクムシ科).水生動物, 2023, AA2023-13.