ワレカラ(我から?【破殻/割殻】)

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 トゲワレカラCaprella scaura Templeton, 1836と思います。
 頭部後端から前方に湾曲した大棘をもち、第4~第7胸節背面に突起をもつのも特徴ですが、1)第2咬脚の底節が長くて、第2胸節とほぼ同長、2)各胸節のなかで、第2胸節が最も長いという2点が、結構重要な特徴のようです。(写真の個体はちょっとビミョーですけど)

○主な掲載図鑑など:
Caprella scaura: Arimoto, 1931, p.16, 20, pl.3, figs.1-6.
内海冨士夫[原色動物大図鑑(検法, 1961, p.121, pl. 60, No.2.
内海冨士夫[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.579, No.856.
西村三郎[学研生物図鑑水生動物], 1981, p.96, 277.
武田正倫[原色甲殻類検索図鑑], 1982, p.232, No.689.
竹内一郎[原色検索日本海岸動物図鑑(供法, 1995, p. 196, fig. 21-180.
Takeuchi, 1999, p. 10, no.86.
Caprella (Spinicephala) scaura diceros: Arimoto [Taxonomic studies of caprellids found in Japanese waters], 1976d, p.148, figs.79-81.
Caprella (Spinicephala) scaura hamata: Arimoto [Taxonomic studies of caprellids found in Japanese waters], 1976d, p.155, fig.82.
Caprella (Spinicephala) scaura typica: Arimoto [Taxonomic studies of caprellids found in Japanese waters], 1976d, p.147, fig.78.



 ワレカラ類は、1~2cmくらいの小型甲殻類で、パッと見、ナナフシのような、カマキリのような印象を受けます。この外形から、欧米では“skeleton-shrimp”と呼ばれているそうです(オーストラリアでは“ghost-shrimp”と呼ばれているそうです)。世界から250種が知られ(Bowman & Abele, 1982)、このうち日本からは115種(含クジラジラミ類8種)がリストアップされています(Takeuchi, 1999)。日本近海は、驚くほどワレカラ類の種多様性が高いそうです。

 海藻上に見られる種類が多いですが、ムカシワレカラProtomima imitatrix Mayer, 1903などは軟泥域に生息します。
 葉上動物として時に大繁殖していることがあり、ガラモ場での現存量が1.5 kg/屬箸いΦ録があります(布施, 1962)。藻場を摂餌場とするマダイ、カサゴアイナメなどの好餌料となっていることも知られています(平山, 1978;竹内, 1996)。
 また、Caprella ungulina Mayer, 1903はタラバガニ科の3種(イバラガニモドキLithoides aequispina Benedict, 1894、エゾイバラガニParalomis multispina (Benedict, 1894)、Neolithodes asperrimus Barnard)の体表に付着することが知られ(竹内, 1989)、Caprella andreae Mayer, 1890は、ウミガメ類の甲上のカメフジツボChelonibia testudinaria (Linnaeus, 1757)から報告されています(Aoki & Kikuchi, 1995)。

 「ワレカラ」の語源については、詳しくは分かっていないそうです。『枕草子』には「虫は 鈴虫。 ひぐらし。 蝶。 松虫。 きりぎりす。 はたおり。 われから。 ひおむし。 蛍。」という唄があり、千年もの昔からこの名前で呼ばれていたことが知られています。ただし、この名前が現在のワレカラを指しているかどうかについては異論があります(この唄、かなり有名で、web上で結構ヒットします)
 『動物百物語』(内田享, 1971, ニュー・サイエンス社)には、「言海によると破殻の義としてあって海にすむ虫の古貝の破れた殻が藻についているのを指したのが正しいのではないかといっているが、藻に付着する小虫、小蝦などのことをいうのかもしれないといっている。破殻といって古貝の破れたのをいうのは大和草本などの説によったものである。」という記述があり、現在の甲殻類の和名としてはじめて用いたのは五島清太郎先生(東京帝国大学教授)で、著書「動物学綱要」で次の唄が引用されていることが記されています。
 牾た佑隆る 藻に住む虫のわれからと ねをこそなかめ 世をば恨みじ瓠米8仰昌辧惴添O族僚検戞癖唇損?紂法

 青木先生はワレカラを普及させるべく、ワレカラの絵本を自費出版されています(入手できませんでした・・・涙)。あと、樋口一葉の小説に「われから」というものがあるそうです。『大つごもり・十三夜 他五篇』(岩波文庫)に集録されているとのこと。(ワレカラに関連するかどうかは分かりません)


[参考文献]
1)Bowman, T. E. & Abele, L. G. 1982. Classification of the recent Crustacea. in The biology of Crustacea,1. Systematics, the fossil record, and biogeography., In Abele, L. G. (Edit.). Academic Press., New York. pp. 1-27.
2)布施慎一郎.1962.ガラモ場における動物群集.生理生態,11:23-46.
3)平山 明.1978.ガラモ場に生活するメバル当歳魚の摂餌活動と移動及び種間関係について.南紀生物,20:50-62.
4)竹内一郎.1989.イバラガニモドキから採集されたワレカラの1種Caprella ungulina Mayer.海洋と生物,62:表紙.
5)Takeuchi, I. 1999. Checklist and bibliography of the Caprellidea (Crustacea: Amphipoda) from Japanese waters. Otsuchi Marine Science, 24: 5-17.