イバラワレカラ

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パラ・ベツさんから大きなワレカラをいただきました。漁網等に大量に付着して、大被害をもたらしているそうです。
 
調べてみましたところ、イバラワレカラCaprella acanthogaster Mayer, 1890という種類ではないかと思います。本種の特徴は次の通り;
1. 2咬脚基節は第2胸節の1/2より長い
2. 頭部先端は丸く、後部に突起はない
3. 各胸節中で第2胸節がもっとも長い
4. 4~第7胸節に小さな突起が密生する
5. 1・第2胸節と第2咬脚に細毛がない
 
北日本に普通にみられる種類だそうです。
 
 
さて、漁業被害ですが、Nob!!はそういったことに詳しくないので、専門家などに聞いて追って加筆します。
 
手許の文献によれば、暖海産のホソワレカラCaprella danilevskii Czerniavski, 1868では孵化後約20日で成熟(竹内, 2004)とありますので、冷水産で、巨大な本種では、さらにライフサイクルは長いのではないかと思います。
ですので、漁具投入後、1ヵ月に1回程度清掃することで、ワレカラが成熟する前に退治できるのではないかと予想します。
ワレカラが漁網に侵入する過程が正確には分かりませんが、おそらく海中を浮遊する幼体がとりついて、網の上で成長し、個体群を形成するのではないかと思います。この侵入に季節性があるのであれば、侵入時期に特にこまめな清掃が必要であろうし、周年的に加入するのであっても、網の上で成熟・繁殖する前に退治していけば、効果が得られるのではないかと思います。
 
繰り返しますが、Nob!!はこの分野にはうとく、加えて、パラ・ベツさんの漁業様式や規模も分からず、何より現場を自分の眼で見ていません。全く持って無責任な発言となりますので、どうかご容赦ください。
 
なお、竹内(2004)によるホソワレカラのライフサイクルは、次のように記述されております。ご参考まで:
「ホソワレカラを実験室内で飼育した結果、孵化直後の幼体は体長が1.5mm程度であるが、27日間隔で脱皮を繰り返し、雄は10.9mmに、雌は8.2mmにまで成長する。雌は孵化後20.8日目に7齢になったときに成熟期に達し、以降、平均5.0日間隔で5.4回の産卵を繰り返した。雄も20日前後で成熟すると推察されたが、その後、脱皮を繰り返しながら、ワレカラ類で顕著な性的特徴を示す第2顎脚の前節が急激に大型化することが観察された。」
 
ワレカラ類は、脱皮とともに第1触角の鞭部の節数が増加することが知られています。写真の標本は18節でした。孵化個体の節数が分かれば、齢が分かります。調べてみます。
 
   
(参考文献)
竹内一郎2004.ワレカラ類.In竹内一郎・田辺信介・日野明徳(編),微量人工化学物質の生物モニタリング.pp.79-93恒星社厚生閣,東京.
 
 
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(加筆2012.2.17)
イバラワレカラについての、研究論文があるようです。webでヒットしました。
手許にない文献ですので、近いうちに入手しようと思います。
読んだら内容を反映させます。
 
細野隆史・桜井泰憲.2006.水産施設に汚損生物として出現するイバラワレカラCaprella acanthogaster (甲殻綱: 端脚目)の生活史. 水産増殖, 54(1): 107-114.
 
 
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(加筆2012.2.26
 
Kamakaさんの御好意で、文献を入手できました。
文献によれば、本種は北日本を生息地とするワレカラ類で、北海道沿岸におけるホタテ養殖施設、定置網などに極めて多量に出現するそうです。興味深いのは、近隣の海藻群落ではほとんどみられないという点で、いったいどこからやって来るのでしょうか? 陸奥湾では春季にプランクトンとして採集されるということも記されています。
この研究ではナイロンネット(2mm目合、50×60cm)の人工基質を海中に設置し、季節的な消長を調べています。調査地は北海道南部太平洋岸の臼尻。
ワレカラ個体群は、調査地で海水温が上昇しはじめる45月頃に形成され、その後個体群密度は増加し、7-8月に最高になっています。最高個体群密度は1,107,404個体/基質だそうです。
この論文では、ワレカラの体長が計測されていて、小型個体、大型個体と区別されています。ですがそれぞれどの体長範囲のことか明記されていません。図から読み取れば最大個体は3cm未満のようですので、今回パラ・ペツ様から送っていただいたものよりかなり小型です。また、この論文中ではワレカラの齢については触れられていませんでした。
 
Arimotoの総説(1976)には本種の幼体(Fig.92J、恐らく孵化個体)の第1触角の鞭部は1節と記述されるので、毎脱皮で1節づつ増えていくのであれば、写真の個体は18齢と考えられます。Arimotoでの本種雄(Fig.91A)は体長42mmで、第1触角鞭部は21節と記述されています(p.169)。