シタムシ類について

シタムシtongue-wormという寄生虫がいます。脊椎動物の体内に内部寄生し、宿主としてはイヌ、ネコ、キツネ、ヤギ、ウマなどのほ乳類、ヘビ、ワニ、トカゲ、カメなどの爬虫類や、鳥類などが知られるようです。
 「五口動物」あるいは「舌形動物」と呼ばれる分類群で、学名は“Pentastomida”あるいは“Linguatulida”。かつては独立した分類群とされていましたが(荒木, 1997町田, 2000)、現在では甲殻類1亜綱に位置づけられています(Martin & Davis, 2001)。
 武田(2000)に「近年、18S rRNAの分子系統解析によって甲殻類の鰓尾類(チョウ類)と近縁であることが示された」と紹介され、Abele et al. (1989)が引用されています。
(しかし、武田(2000)は該当箇所のコピーしか持ってなくて、この文献は特定できておりません、、、orz
 
18世紀後半にイヌの鼻腔からはじめて発見され、条虫(扁形動物)の一種として報告されたそうです(荒木, 1997)。
 
体は細長い“蠕虫状”で、数ミリメートルから15 cm程度の大きさ、やわらかい体には最大90環節を備えます。全成長段階において甲殻類らしい姿にはならないとのこと。
 体前端近くに2対の鉤があり、その間に口が開きます。この孔と口を合わせた印象から「五口動物」と呼ばれるようです。
 また、背腹に扁平あるいは円筒形で、深い環状の構造のあるものが多く、最初にイヌの鼻腔から発見された種が背腹に扁平であったことから、「シタムシ(舌形動物)」の名前がついたそうです。
 
 
Nob!!甲殻類を勉強しだしたころは、まだこれが“甲殻類”として紹介された教科書がほとんどなくて、まったくのノーマークでした。20年くらい前に、H博士からその存在を教えていただき、興味を覚えたしだいです。
 
目黒寄生虫博物館と国立科学博物館(上野)にシタムシ類の標本展示があります。
ともに、Parasite Loversのオフ会で確認してきました。
 
懇意にしていただいているTY博士が編集長された学会誌に、最近シタムシの報告が掲載されているのを見つけ、気になったのでググったら、酪農学園大学野生動物医学センターWild Animal Medical CenterWAMC)がシタムシの研究をされていることがわかりました(文章が回りくどいか?)。いくつかの論文がweb上にアップされています。
 どうやら、Poore2012)という論文が重要なようです。
 WAMCの浅川先生とは学会で昔何度かお会いしているので、こんど突撃でご教示を乞いたいと思います。
 
 
分 類
 29科約100種が知られるようです(Martin & Davis, 2001;高木・浅川, 2015)。
ケファロバエナ目Cephalobaenida
  Cephalobaenidae科(Cephalobaena属)
  Raillietiellidae科(Raillietiella属とYelirella属)
  Reighardiidae科(Reighardia属)
ポロケファルス目Porocephalida
 Linguatuloidea上科
  Linguatuloidae科(Linguatula属)
 Porocephaloidea上科
  Armilliferidae科(Armillifer属)
  Porocephaloidae科(Cayerina属,Cuberia属,Gigliolella属,Kiricephalus属,Porocephalus属)
  Sambonidae科(Elenia属,Parasambonia属,Sambonia属,Waddycephalus属)
  Sebekidae科(Agema属,Alofia属,Diesingia属,Leiperia属,Pelonia属,Sebekia属,Selfia属)
  Subtriquetridae科(Subtriquetra属)
 
『新日本動物図鑑(中)』には次の2種が掲載されます。いずれも著者は(岸田・森川)とされ、第1著者は岸田久吉さんと思われますが、森川さんの方はどなたかわかりません。
● イヌシタムシLinguatula  taenioides Rudolphi
● カエルシタムシCayerina  mirabilis Kishida
→ 森川さん名前わかりました! 松山東雲短期大学の森川國康教授でした。実は初版の図鑑には筆者一覧のページがあたのですが、Nob!!がみた第9版にはこのページがなかったのです。ご教示いただいたI博士に感謝です(2023.6.2加筆)。
 
高木・浅川(20152016)には、日本国内におけるシタムシ類の検出事例がとりまとめられています。
・海鳥類
 検体:ミツユビカモメとエトロフウミスズメ
  Reighardia  sternae
・爬虫類
 検体:トッケイヤモリ
  Raillietiella  gehyrae
 検体:マレーニシキヘビ
  Armillifer  moniliformis var. heynonsi
 検体:ヘリトリホソユビヤモリ
  Raillietiella  sp.
 検体:マツカサトカゲ
  Raillietiella  scincoides
・サル類
 検体:ポト
  Armillifer属の一種
 検体:カニクイザル
  Porocephalus属の一種
・クマ類
 検体:ヒグマ
  Armillifer属の一種
 
〇生活史
 雌雄異体。雌は雄よりはるかに大きい(荒木, 1997)。多くの教科書に“幼虫”というステージが記されていますが、これが高木・浅川(2015)による被嚢幼虫を指すものかどうかは確認が必要かと思います。
 
〇生 態
 宿主肉食動物の呼吸器系(鼻腔、気管、肺)に寄生し、粘液、細胞、あるいは血液を摂食。虫卵は喀痰(かくたん)や鼻汁(びじゅう)、あるいは再摂取されて排出された糞に含まれるようです。これらで汚染された食物を摂取したさまざまな小型脊椎動物が中間宿主となり、その体組織内で幼虫が成育します(荒木, 1997;朝倉, 2003)。被嚢幼虫は胸腹腔内、腸間膜、大網、子宮広間膜中、腎臓、胃、肝臓、脾臓脾臓表面などから、時に多数の検出がみられるようです(高木・浅川, 2015)。
 
〇舌虫症
 シタムシはひとも宿主となることが知られ、イヌを愛好するヨーロッパでは、かつて少なからず症例が知られていたようです(荒木, 1997;朝倉, 2003)。
 これは「舌虫症 Pentastomiasis」と呼ばれます。高木・浅川(2015)に詳しい解説がありますが、時に重症となることもあるようですが、多くの場合無症状で経過するようです。症状は咽頭痛や発熱、腹部症状(腹痛、下痢、腹部膨張)など特異的な臨床症状はなく、特に、虫垂炎や劇症型ウイルス性心筋炎などとの類症鑑別はほぼ不可能ということです。中国での症例は、すべてX線、CT、超音波などによる画像診断の成果と報告されています。
 
 
 
 
<文献>
1)Abele, L., Kim, W., & Felgenhauer, B. E. (1989). Molecular evidence for inclusion of the phylum Pentastomida in the Crustacea. Molecular Biology and Evolution, 6, 685–691.
2荒木 潤1997.舌形動物(シタムシ類In日高敏隆監修・奥谷喬司・武田正倫・今福道夫編集.日本動物大百科第7巻:無脊椎動物pp.117-119平凡社,東京.
3)朝倉 彰2003甲殻類とは.In朝倉 彰編.甲殻類学:エビ・カニとその仲間の世界.pp.1-30東海大学出版会,東京.
4)石井俊雄.1998.獣医寄生虫学・寄生虫病学(2):蠕虫他.278 pp講談社,東京.
5)岸田久吉・森川國康.1965.いぬしたむし.In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修,新日本動物図鑑(中p.329,No.1.北隆館,東京.
6)岸田久吉・森川國康.1965.かえるしたむし.In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修,新日本動物図鑑(中p.329,No.2.北隆館,東京.
7Martin, J. W. & Davis, G. E. 2001.  An updated classificationof the recent Crustacea.  National History Museum of Los Angeles Country Science, 39: 1-123.
8)町田昌昭.2000.舌形動物門.In白石義久編,無脊椎動物の多様性と系統:バイオディバーシティ・シリーズ 5pp.167-168裳華房,東京.
9Poore,G.C.B. 2012. The nomenclature of the recent Pentastomida (Crustacea), with a list of species and available names.  Systematic Parasitology, 82: 211-240.
10高木佑基・浅川満彦.2015.舌形動物および舌虫症に関する最近の知見:特に酪農学園大学野生動物医学センターWAMCで扱われた事例を中心に.J. RakunoGakuen Univ., 40(1): 11-16.
11高木佑基・浅川満彦.2016北日本の動物園で飼育された爬虫類から得られたRaillietiella属舌虫類.Med. Entomol. Zool., 67(1): 35-36.
12)武田正倫.2000.側節足動物たちと節足動物との系統関係.In白石義久編,無脊椎動物の多様性と系統:バイオディバーシティ・シリーズ 5pp.165-166裳華房,東京.
13)Wingstrand, K. G. (1972). Comparative spermatology of a pentastomid, Raillietiella hemidactyla, and a branchiuran crustacean, Argulus foliaceus, with a discussion of pentastomid relationships. Danske Veterinariensskrift Selskabelige Biologiske Skrifter, 19, 1–72.
14)山下次郎・中俣充志.1953.錦蛇の肺臓より得た舌蟲に就いて.北海道大學農學部邦文紀要,1(3)309-311
15)山下次郎・大林正士.1954.犬体内に於て中間宿主体内的寄生を示した舌虫Linguatulaserrata Frölich, 1789に就て.北海道大學農學部邦文紀要,2(2)146-148
 
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2020.7.7.加筆
 
9)の文献を、H大のKW先生のご厚意で入手することができました。これから勉強します。
論文1件を追加しました。こちらはweb上からDLすることできました。