イソガニフクロムシの生活史【甲殻類備忘録】


思うところあって、フクロムシのこと調べました。
 難しい文献はあと回しにして、高橋博士が日本語で執筆されたフクロムシの話しを読みました(高橋, 2001, 2004)。

 博士自らが記載されたフクロムシ類、イソガニフクロムシPolyascus polygenea(Lützen & Takahashi, 1997)の生活史や寄生去勢について詳しく紹介されております。

 


Nob!!目線で要約すると下記のような感じ。


Sacculinapolygenea Lützen & Takahashi, 1997として記載(Lützen & Takahashi, 1997)。


Polyascus Glenner, Lützen & Takahashi, 2003属に移動(Glennerほか, 2003)。


・和名は高橋(2004)による。


・天草産イソガニHemigrapsus sanguineus (De Haan, 1835)から記載される


・ノープリウス期から雌雄の差がある。


・ノープリウス4期。


・キプリス期は大きいほうがオス、小さいほうがメス。


・正常なカニにメスのキプリス幼生が寄生。


・メスのキプリス幼生がカニに付着してkentrogon幼生へと変態し、脱皮しvermigon幼生となりカニの体内に侵入する。


vermigon幼生はカニ体内を移動して、カニの腹部に到達するとインテルナとして発達する。


・潜伏期間は多くのフクロムシで約1か月。


・バージン・エキステルナ(直径12mm)が出現。これが約3mmに成長する脱皮してマントル口が開き、ここからオスのキプリス幼生が進入する。


・レセプタクルにオスが入るとエキステルナ(外生体)が成長する。エキステルナ内部は卵巣と受精卵で満たされる。


フクロムシの受精卵がふ化直前になると、カニは岩の上に登る。フクロムシのふ化がはじまると、カニは腹部の開閉運動を行う。


フクロムシは何回かの産卵を行うと、エキステルナは弱り、カニによって除去・摂食される。後、カニは脱皮成長し、再びバージン・エキステルナが出現する。


・メスのカニに寄生したフクロムシインテルナは、カニの卵巣を破壊する。


・一方、寄生されたオスガニの輸精管内には精子が存在し、精子形成も行われている。


・ただし、寄生されたオスガニは、寄生去勢によって外形はメス化し、腹部が拡張するのみでなく、ペニスは退縮し、メス特有の腹肢まで生じる。


・オスのカニに寄生したフクロムシインテルナは、カニの雄性腺を破壊する。これによって雄性腺ホルモンの分泌がなくなったカニは、脱皮とともにメス化(カニの性の基本形)するものと考えられている。


 


 


<文献>

Glenner, H., J. Lützen & T. Takahashi.  2003.  Molecular and morphological evidence for amonophyletic clade of asexually reproducing Rhizocephala: Polyascus, new genus (Cirripedia).  Journal of Crustacean Biology. 23: 548-557.

星野憲三.1965.イワガニ Pachygrapsus crassipes Randallの体内に於けるウンモンフクロムシSacculina confragosa Boschmaの根系の分布状態につて.甲殻類の研究,23-8, 3 pls.

Lützen, J. & T. Takahashi.  1997.  Sacculina polygenea, a new species ofrhizocephalan (Cirripedia: Rhizocephala) from Japan, parasitic on theintertidal crab Hemigrapsus sanguineus(De Haan, 1835) (Decapoda: Brachyura: Grapsidae).  Crustacean Research. 26: 103-108.

高橋徹2001フクロムシ研究,最近の話題:イソガニに寄生するSacculinapolygeneaを中心に.月刊海洋,号外26146-154

高橋徹2004.性をあやつる寄生虫フクロムシin長澤和也(編),フィールドの寄生虫学.pp. 81-95東海大学出版会.