フジツボの子

イメージ 1


祝! 50ページ達成!!(ってほどでもないけど:微笑) 最近では日に30名くらいのアクセスをいただいております。こんなつまらないブログを観に来てくださるみな様、本当に感謝でございます。

-・● ●・- -・● ●・- -・● ●・- -・● ●・- -・● ●・- 


 この写真、フジツボプランクトン幼生です。
 フジツボっていったら、海岸の岩場やコンクリ堤防、テトラポッドにへばり付いているあれです。貝だと思っていませんか? いえいえ、れっきとした甲殻類です。

 鞘甲類Thecostracaっていいます( http://blogs.yahoo.co.jp/yevicanidaisuki/4200357.html )。
 その形態から学術的にも1829年までは二枚貝の仲間と考えられていたそうです。しかし、その孵化幼生はノープリウスnaupliusで、明らかに甲殻類です。

 ノープリウスについてはこちらのページを:
http://blogs.yahoo.co.jp/yevicanidaisuki/4650533.html

 上の写真がノープリウス幼生、下はキプリス幼生といいます。
 どちらも沿岸域のプランクトンとしてごく普通に採集されます。

 鞘甲類のノープリウスは逆三角形の背甲を備えるのが特徴です(下図参照)。
 ノープリウスは脱皮を繰りかえし成長します。フジツボ類の場合、6期前後を経て、次のキプリス期cyprisになります(下図のタテジマフジツボではノープリウス7期と報告されています)。写真のノープリウスは恐らく最終期(胸腹突起の中にキプリスで生じる胸肢が見えます)。

 キプリス期は二枚貝様の背甲に覆われています。キプリスという名前自体二枚貝に由来しているのだと思います。太い1対の第1触角と、6対の胸肢が特徴的です。体の内部に見えるツブツブは油細胞という栄養源で、このすぐ後ろに複眼がみられます。ノープリウス期にはあった第2触角と大顎は、キプリスへの変態時に消失します(キプリス期は餌を食べないため、この時期は不用となるそうです)。胸肢を使って水中を泳ぎます。遊泳速度は体長約1mmの種類で、6.0~9.5cm/秒という報告があります(1秒間に体長の60~95倍の距離を泳ぐことになります)。キプリスはカニのメガロパ期のように1期のみで、これが脱皮すると幼稚体になります。
 つまり、フジツボ類はキプリス期で基盤に付着して脱皮し、幼体~成体へと成長するのです。
 付着基質にたどり着いたキプリスは、第1触角で好的な付着場所を散策、選定します。第1触角先端が変形した吸盤で付着基質に着き、第1触角第3節に開くセメント腺から分泌する付着物質で体を固定して倒立します。二枚貝様の殻を脱ぎ、稚フジツボとなります。殻といっしょに複眼も脱ぎすてます。
 一度付着し、変態したフジツボは移動能力を失ってしまいますが、キプリス幼生の付着場所探査は、適地にたどり着くまで数回行われるようです(気に入らない場所だと付着をやりなおすそうです)。
 単一種が密集するフジツボもあり、これらのキプリスは同種が付いている場所にたどり着くと、直ちに付着します。これはフジツボが分泌するアルスロポディンというタンパク質を第1触角で感知するためだそうです。

 このキプリスの付着行動について、かなり貴重な動画サイトがありました(貴重な動画ですが、すっごくキュートです):
http://www.akita-pu.ac.jp/bioresource/dbt/cellbiol/OKANOKEIJU/fujitubo_cover_frame1.htm


 フジツボは、海岸から深海、熱水噴出孔周辺などにもみられ、またウミガメ類につく種類や、カニ類のエラからみつかる種類など、実に多様です。このあたりについてもそのうちネタにしたいと思います。

イメージ 2



このフジツボの画、[原図]なんて記しましたが、実は学生時代に描いたらくがきです(笑; しかしオレってものもちいいかも)。




[参考文献]
1)藤永元作・笠原 昊.1942.タテジマフジツボの飼育と形態.動物学雑誌,54(3):108-118.
2)加戸隆介.1991.フジツボ.In梶原 武監修・(財)水産無脊椎動物研究所編,海洋生物の付着機構.pp.85-100.恒星社厚生閣,東京.
3)高橋弥生・岡野桂樹.2006.アカフジツボキプリス幼生の付着前後の行動.うみうし通信,51:2-3.
4)山口寿之.1997.蔓脚類(フジツボ類).In日高敏隆監修・奥谷喬司・武田正倫・今福道夫編集.日本動物大百科第7巻:無脊椎動物.pp.128-129,131-132.平凡社,東京.