ホタテエラカザリ(カイアシ類)

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みなさんにハッピー・ヴァレンタインです(ってオイオイ(^_^)v)


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 1970年代はじめ、陸奥湾の養殖ホタテPatinopecten yessoensis (Jay, 1857)から特異な寄生虫が確認された。
 寄生体の外形は一見フクロムシ類に類似することから、当初水産関係者からはフクロムシSacculina sp.として扱われた。しかし体内部の構造はフクロムシと異なり、ノープリウス幼生naupliusも前側突起を欠くため、かいあし類の新属新種として記載された。

 ホタテエラカザリPectenophilus ornatus Nagasawa, Bresciani & Lützen, 1988である。

 寄生部位はホタテの鰓だが、寄生体は宿主の被膜に覆われており、「内部寄生性」の範疇にある。
 宿主への寄生主体はメスである。その外形は「ヒラガキ」様で、外縁は5葉に分かれ、各葉は著しく膨張する。サイズは最大8 mm。体節構造は完全に消失し、付属肢も全て欠く。体色は橙黄色で美しく、体表は滑らかで、背面に1個の出産孔が開く。オスは大豆様で、サイズは370~500μm。メスの体内の「雄嚢」という小腔にすむ。


 本種は、新属として記載されたが、その分類学的位置(Pectenophilus属が所属する科や目)は永い間不明であった。
 最近になって細胞核の18SリボゾームDNAの塩基配列を詳細に検討した分子系統学的手法により、二枚貝類に寄生するポエキロストム目ミチリコーラ科Mytilicolidaeに所属することが判明した。
 新種記載されてから、実に20年近く経っての開明である。

 ホタテガイ以外では、アカザラガイChlamys farreri akazara (Kuroda, 1932)とアズマニシキChlamys farreri nipponensis (Jones & Preston, 1904)への寄生が確認されている。宿主3種はすべてイタヤガイ科の二枚貝である。
 養殖ホタテでは、垂下式養殖よりも地蒔き式養殖の貝に寄生個体が多い。
 しかし、どのようなタイミングで感染するのかなど、感染経路の実態については不明である。


○関連サイト
http://www.net.pref.aomori.jp/zoshoku/hotateinf/disease-philus.html
http://www.net.pref.aomori.jp/zoshoku/hotateinf/predator.htm

http://park.ecc.u-tokyo.ac.jp/fishparasite/Pectenophilus/Pectenophilus.html

あと、なおと君も本種に関するページを立ちあげています。Nob!!と気が合うかも
http://blogs.yahoo.co.jp/hiratamiyama/53848112.html



[参考文献]
1)Huys, R., Llewellyn-Hughes, J., Olson, P. D. & Nagasawa, K. 2006. Small subunit rDNA and Bayesian inference reveal Pectenophilus ornatus (Copepoda incertae sedis) as highly transformed Mytilicolidae, and support assignmemnt of Chondracanthidae and Xarifiidae to Lichomolgoidea (Cyclopoida). Biological Journal of the Linnean Society, 87: 403-424.
2)長澤和也.1989.ホタテガイに寄生するフクロムシ:水族寄生虫ノート.海洋と生物,62:232-233
3)長澤和也.1999.寄生性カイアシ類の異端児,ホタテエラカザリの形態と生態.海洋と生物,125:471-476.
4)Nagasawa, K. 1999. The biology of the parasitic copepod, Pectenophilus ornatus, of pectinid bivalves in Japanpan overview. Biogeography, 1: 3-18.
5)長澤和也.2002.魚介類に寄生する生物,ベルソーブックス009.198 pp.成山堂,東京.
6)長澤和也.2003.さかなの寄生虫を調べる,ベルソーブックス016.186 pp.成山堂,東京.
7)Nagasawa, K., Bresciani, J & Lützen, J. 1988. Morphology of Pectenophilus ornatus, new genus, new species, a copepod parasite of the Japanese scallop Patinopecten yessoensis. Journal of Crustacean Biology, 8: 31-42.
8)大塚 攻.2006.カイアシ類・水平進化という戦略:海洋生態系を支える微小生物の世界,NHKブックス[1069].260 pp.日本放送出版協会,東京.