続・ウオジラミ

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 プランクトンを見ていたらウオジラミがいました。
 この海域(といっても河口域なんですが)のプランクトンをここ数年見る機会が続いているのですが、かなり稀ではありますが、ウオジラミが採集されていることがあります。
 プランクトン分析をしていても、ウオジラミなどほとんどみませんので、この海域は特別なのかもしれません。

 学生の頃は、稚魚ネットといって、口径が1.3mもある大型プランクトンネットの採集物をみる機会が結構あり、やはりウオジラミを見つけたことがあります。
 あるとき、寄生虫学の先生にそのことを話したら、「そういう知見はないので、かなり貴重な経験ですよ」といわれたことがあります。

 今回採集されたウオジラミ、uni2さんのこともあり、気になっていたので種類を調べてみました。
 Caligus undulatus Shen & Li, 1959という種類だと思います。これまでこの海域で採れたものが総てこの種かどうかはわかりませんが、シルエットは似ています。あとできちんと調べて見ます。


 実は最近、プランクトンとして採集されるウオジラミに関する論文が発表されました。広大の大塚 攻先生等の御研究です。この種類もこの論文で知りました。

 この論文では、魚類寄生虫であるウオジラミがプランクトンとして採集される経緯について、1)宿主の病気などの理由から離脱、2)宿主間の移動、3)生活型の変更、4)アクシデントによる宿主からの脱落、の可能性を挙げています。


 また、興味深いのは、プランクトンとしては知られているが、魚に寄生した状態の記録がない種類が5種いるということです。Caligus plankutonis Pillai, 1979という種類など、種小名が示すようにプランクトンとして採集、記載された種で、宿主への寄生が確認されたのは、記載されてから25年後のことだそうです。

 このC. undulatusもそのうちの1種で、これまでインド、中国、韓国、日本、ブラジルからプランクトンとして採集され報告されていますが、魚類への寄生は知られていないそうです。ちなみに、日本での採集地は山口県宇部(瀬戸内海)と佐賀県有明海)で、私のサンプルは東京湾のものです。

 「動物系統分類学7(上)」のウオジラミ類の解説(p.125)には「雄、しばしば雌もまた、宿主を去って遊泳する場合がある。」とあるので、漠然と「プランクトンとしても採れるんだなぁ」というくらいにしか考えていませんでした。もっとちゃんとデータとっておけばよかったな。


 Uni2さんがいうように、ウオジラミに関する解説って結構少ないですね。そこで、今回のウオジラミをもとに部分名称図を描いてみました。基本的な体形はカイアシ類なのですが(あたりまえか)、ウオジラミ特有の部位もあるので... それにプランクトンのカイアシ類を見馴れていても、いざウオジラミを見ると、どの脚がどれかはパッとはわからないです(>_<)。ひさしぶりのスケッチなので、なんか歪んでますね。いづれ描きなおします。

 ウオジラミの体形については「Sea lice of Taiwan」が参考になります。これを見ながら、カイアシ類の一般形態の部分名称を「日本産海洋プランクトン検索図説」、ウオジラミ特有の部分名称は「新日本動物図鑑(中)」中の各種の解説を使って部分名称図に仕上げました。Postantennal processについては手許の文献で訳語がみあたらなかったので、「後触角突起」としました。

 参考になるでしょうか? かえって混乱しちゃうかな??




[参考文献]
1)Ho, J.-S. & Lin, C.-L. 2004. Sea lice of Taiwan. iv+388 pp. The Sueichan Press, Taiwan.
2)Maran, B. A. V. & Ohtsuka, S. 2008. Descriptions of caligiform copepods in plankton samples collected from East Asia: accidental occurrences or a new mode of life cycle? Plankton & Benthos Research, 3(4): 202-215.
3)大塚 攻・上田拓史.1997.カイアシ亜綱総説・カラヌス目総説.In千原光雄・村野正昭編,日本産海洋プランクトン検索図説.pp.xiv, 649-658, 660-668.東海大学出版会,東京.
4)椎野季雄.1964.動物系統分類学7(上).節足動物(I),総説・甲殻類.3+312 pp.中山書店,東京.
5)田中於菟彦・伊藤 隆・丸川久俊・椎野季雄.1965.橈脚亜綱.In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修,新日本動物図鑑(中).pp.457-502, No.428-602.北隆館,東京.