ツノナシオキアミ

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 ツノナシオキアミEuphausia pacifica Hansen, 1911です。漁獲対象となるプランクトンの一種です。といっても食用ではなく、養殖魚の飼料や釣り餌のコマセとして利用されるようです。
 華のない写真に思われますか?  オキアミは眼がクリクリとしていて、胸部腹面にフサフサの鰓をまとい、均整のとれたエビ相をしていて、秘かにお気に入りの甲殻類です。

 ツノナシオキアミは冷水域に生息する種類で、親潮流域などでは大型プランクトンネットで大量に採集されます。
 三陸常磐沿岸の4県(岩手県宮城県福島県茨城県)を漁場として、漁業が行われています。漁獲量は昭和60年以降4~8万t/年程度です(平均6万6千トン)。親潮の第一分枝が南偏型の年、つまり、親潮の勢力の強い年に豊漁になる傾向があるそうです。
 5~15t程度の小型漁船によって、すくい網あるいは船曳き網で漁獲されます。漁期は2~7月。年間総生産金額は平均31億円で、重要な沿岸漁業となっています。

 寿命は2年で、生後1年で成熟します。産卵数は約2000粒で、20回くらいにわけて海中に産出されます。分布密度は0.5~5個体/m3程度ですが、パッチ内では3 kg/m3になると推定されています。


●主な掲載図鑑:
小牧勇蔵[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.586, No.874.
山路 勇[日本海プランクトン図鑑], 1966, p.404, pl.125, No.2.
武田正倫[原色甲殻類検索図鑑], 1982, p.231, No.685.
澤本彰三[日本産海洋プランクトン検索図説], 1997, p.1207, pl. 8, no. 12.



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 オキアミ類は、2科84種1亜種からなり、日本近海からはこのうち43種が知られています。
 「A practical guide to the euphausiids of the world」という本(もちろん英文)に全種が掲載されていて、種類の検索ができます。
 「日本産海洋プランクトン検索図説」には38種が掲載されています。

 多くの種類が体長3cm以下です。
 和名の付いた種類が少ないです(なんでかな?)。数えてみたら和名が付いているのは9種。うち1種はナンキョクオキアミEuphausia superba DANA,1850で、海外(もちろん南極)の種類でした。

 ソコオキアミBentheuphausia amblyops G.O.Sars, 1885の1種を除く総ての種類が発光器を備える発光生物で、Euphausia の“eu”とは「真」の、“phausia”とは「光る」の意味です。
 眼柄、第2・第7胸肢基部・第1~第4腹部腹面腹板上に発光器を備えます。

 多くの種類が海中に卵を産み落としますが、Nyctiphanes 属、Pseudeuphausia 属、Tessarabrachion属、Nematoscelis 属、Nematobrachion 属、Stylocheiron 属の24種ではお腹に卵塊をぶら下げます。
 ノープリウス幼生naupliusで孵化します。3期のノープリウス(第3期はメタノープリウスmetanaupliusに区別することも多い)に次いでカリプトピス幼生calyptopis 3期、フルキリア幼生furcilia 数期(種によって異なる)を経て成体になります。

 日中は深部、夜間に表層に浮上する「日周鉛直移動」をすることが有名で、日本近海ではEuphausia similis G.O.Sars, 1883などのEuphausia属が最も顕著で、0~500 m層の間で、昼夜で生物量の変化が確認されています。





[参考文献]
1)Baker, A. de C., Boden, B. P. & Brinton, E. 1990. A practical guide to the euphausiids of the world. 96 pp. Natural History Museum Publication, London.
2)村野正昭.1997.オキアミ(類).In日高敏隆監修・奥谷喬司・武田正倫・今福道夫編集.日本動物大百科第7巻:無脊椎動物.pp.138-139.平凡社,東京.
3)根本敬久.1974.おきあみ類.In丸茂隆三編,海洋プランクトン,海洋学講座10.pp.129-149.東京大学出版会,東京.
4)小達和子.1991.三陸常磐沿岸のツノナシオキアミとその漁業.水産研究叢書40,100 pp.(社)日本水産資源保護協会,東京.
5)瀧 憲司.2002.ツノナシオキアミ漁業の変遷及び漁況の特徴について.水研センター研報,3:7-26.
6)瀧 憲司・寺崎 誠.2005.三陸のオキアミ漁業の特徴について.In宮崎信之編.三陸の海と生物:フィールド・サイエンスの新しい展開.pp.84-101.サイエンティスト社,東京.