腹部寄生性エビヤドリムシ

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文楽亭氏から、「エビの腹部から採ったヤドリムシを見て欲しい」って依頼を受けたので、Nob!!なりに調べてみました。
「あなたのヤドリムシ“Nob!!”」なんて名乗っていますが、実はそんなにヤドリムシに詳しいわけではないのですm(__)m


十脚甲殻類寄生生物であるエビヤドリムシ科甲殻類(以下「エビヤドリムシ類」)は、大きく10亜科に分けられます(Markham, 1986)。
●Pseudioninae亜科・・・主に異尾類の鰓腔に寄生(他にコエビ類、タラッシナ類、ザリガニ類)
●Argeiinae亜科・・・主にエビジャコ科Crangonidaeの鰓腔に寄生(他にテッポウエビ属Alpheus、イソモエビ属Eualus、オトヒメエビ属Stenopus)
●Bopyrinae亜科・・・コエビ類の鰓腔に寄生
●Ioninae亜科・・・主に短尾類の鰓腔に寄生(他にタラッシナ類、イセエビ類)
●Orbioninae亜科・・・クルマエビ類に寄生
●Entophilinae亜科・・・Munida spp.の鰓腔に寄生(1属1種:Entophilus omnitectus)
●Bopyrophryxinae亜科・・・Parapagurus monstrosusに寄生(1属1種:Bopyrophryxus branchiabdominalis)
●Phyllodurinae亜科・・・Upogebia pugettensisに寄生(1属1種:Phyllodurus abdominalis)
●Athelginae亜科・・・ヤドカリ類の腹部背面に寄生
●Hemiarthrinae亜科・・・コエビ類の腹部腹面に寄生(22属)


依頼を受けたエビヤドリムシ類は6番目の亜科Hemiarthrinaeと思われます。
本亜科の属の検索について、Markhum(1985)を和訳してみました。なお、これは寄生主体であるメスの形態に基づく検索表です。

1.腹部の側突起の全部または一部二叉型・・・ 2
-.側突起は単枝型か、または欠く・・・・・ 3
2.第2抱卵葉は頭部上で折り曲がる;体凸側では1胸脚を、体凹側では7胸脚を備える・・・・Diplophryxus属
-.第2抱卵葉は頭部上で折り曲がらない;体凸側では2胸脚を、体凹側では5胸脚を備える・・・・Allodiplophryxus属
3.体凸側は全7胸脚を備える・・・・・・・・ 4
-.体凸側は1~3胸脚を備える・・・・・・・・ 5
4.全4腹肢か、第1~第3腹肢が二叉型;腹部の全4側突起はよく発達する・・・・・・・Eophrixus属
-.腹肢は単枝型;第4側突起は未発達か欠損・・・・・・・・・・・・・・Loki属
5.体凸側は3胸脚を備える;体軸の屈曲は35°以下・・・・・・・・・・・Dicropleon属
-.体凸側は1または2胸脚を備える;体軸の屈曲は80°以上・・・・・・・・・・・ 6
6.腹肢は二叉型・・・・・・・・・・・Hyperphrixus属
-.腹肢は単枝型・・・・・・・・・・・ 7
7.普通腹部は4節からなり、第1~第3節は腹肢を欠くか、短小なものを体凸側に備える・・・・・Azygopleon属
-.腹部は5節からなり、第1~第4節、稀に第5節にまで両側に腹肢を備える・・・・・・・・ 8
8.体凸側は1胸脚を備える;両触角は縮小する・・・・・・・・・・・・Hemiarthrus属
-.体凸側は2胸脚を備える;両触角は顕著で、無節のヘラ様・・・・・・・・・・・・Metaphrixus属

この検索表は、大西洋アメリカ岸のコエビ類から採集されたエビヤドリムシ類についてまとめられたものです。
本亜科は日本から12種が記録されています(問題のある種もありますが)。いくつかの種はこれで検索可能ですが、Anomophryxus属、Cataphryxus属、Hypophryxus属は含まれていません。1986年の論文で本亜科は22属とされているので、論文をみながら、まだまだ加筆しなくてはなりません。


実は、御依頼のエビヤドリムシ類、まだ手許に届いていません。どんなコが来るのか、楽しみであり、また恐くもあり、ってところです。



写真は本亜科のエビノハラヤドリ Hemiarthrus abdominalis (Krøyer, 1840)、Nob!!のお気に入りです。(実は前にも使った写真です。加工しましたが...)







[参考文献]
1)Markham, J. C. 1985. A review of the bopyrid isopods infesting caridean shrimps in the northwestern Atlantic Ocean, with special reference to those collected during the Hourglass Cruises in the Gulf of Mexico. Memories of the Hourglass Cruises 7(3): 1-156.
2)Markham, J. C. 1986. Evolution and zoogeography of the Isopoda Bopyridae, parasites of Crustacea Decapoda. In R.H. Gore & K.L. Heck (eds.), Crustacean biogeography. Crustacean Issues 4:143–164.
3)齋藤暢宏・伊谷 行・布村 昇.2000.日本産等脚目甲殻類目録(予報).富山市科学文化センター研究報告,23:11-107.


ヤドリムシの分類に関して、GI先生にいろいろとお世話になっています。恐らく先生から教えていただいた1割も理解していないのではないかと思います。これからも御教示たまわりたく、よろしくお願いいたします。