イサザアミ

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 イサザアミNeomysis awatschensis (Brandt, 1851)です。

 ブログ「北のフィールドノート」の管理人、おーやぎ様リクエストなども含め、Nob!!の持つアミ感をまとめてみます。


 アミ類は一見エビににた生き物ですが、多くの種類が体長1~2cmの小型甲殻類です(写真のアミも1.5cm内外)。世界から約1000種が知られ、このうち日本近海や陸水からは約200種が報告されています。
 魚介類の重要な餌生物であり、生態学的に重要な地位にあります。海洋の沿岸域から深海域にかけて、様々な種類が分布しています。河口汽水域や藻場周辺などに、かなり濃密な個体群を形成する種類もあります。このイサザアミも河口域で多量に採集される種類の一つです。

 一見してエビ型ですが、アミ類の特徴としては、尾肢内肢基部に平衡胞という器官があり、これが1対のレンズ様に見える場合があります。(この横からの写真ではよくわかりません)
 また、アミ類も、ウオノエ類やヨコエビ類と同じフクロエビ上目に属しますので、メスは胸部に育房を持ちます。アミの場合、第7~第8胸肢に2対、あるいは第6~第8胸肢に3対の覆卵葉をもち、これが袋状に折り重なって育房となります。写真はメスで、育房が観られます。


 この河口域のイサザアミ、いままではクロイサザアミNeomysis awatschensis (Brandt, 1851)と呼ばれていました。また、霞ヶ浦などの海跡湖にイサザアミNeomysis intermedia (Czerniavsky, 1882) が分布するとされていました。ですが、最近の分類では、これら2種は同じ種類とされ、和名は「イサザアミ」、学名は”Neomysis awatschensis (Brandt, 1851)”とされる様です。

 「北のフィールドノート」に淡水の用水路中で群泳するイサザアミの動画がアップされています。かなり貴重な映像と思います:
http://snowmelt.exblog.jp/7763734/

 河口から5kmも離れた場所だそうです。


 かつて海で、何らかのかたちで陸域に隔絶された「海跡湖」には、本来海産の種類が取り残された動物を、「海跡動物」といいます。霞ヶ浦のイサザアミは海跡動物と考えられています。
 かつて霞ヶ浦利根川を通して海水が侵入していた汽水湖でしたが、1963年に常陸川逆水門ができて以来、湖の淡水化が進んでいます。湖の淡水化にともないイサザアミは消失するものと思われていましたが、淡水湖となってからも見られています(花里, 1998)。


●イサザアミの主な掲載図鑑など
○Neomysis awatschensis (Brandt, 1851) クロイサザアミとして
Ii [Fauna Japonica, Mysidae], 1964, p.436, no.110, fig.110.
井伊直愛[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.525, No.665.
上野益三[日本淡水生物学], 1973, p.458, fig.20-63, 2-5.
村野正昭[原色検索日本海岸動物図鑑(供法, 1995, p. 164, fig.21-117,119A.
村野正昭[日本産海洋プランクトン検索図説], 1997, p.1028, pl.35, no.83.
○Neomysis intermedia (Czerniavsky, 1882) イサザアミとして
Ii [Fauna Japonica, Mysidae], 1964, p.440, no.111, fig.111.
井伊直愛[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.525, No.664.
山路 勇[日本海プランクトン図鑑], 1966, p.402, pl.124, No.13.
上野益三[日本淡水生物学], 1973, p.458, fig.20-63, 1.
村野正昭[日本産海洋プランクトン検索図説], 1997, p.1028, pl.35, no.82.


 写真のイサザアミは多摩川河口域で採集されたものですが、ここではニホンイサザアミNeomysis japonica Nakazawa, 1910 も大量に採集されます。しかも同じ地点でも、日によって採集される種が違っています。これは潮位の違いによるものではないかと考えています。
 利根川下流域では、海側にニホンイサザアミNeomysis japonica Nakazawa, 1910、その上流にクロイサザアミが生息し、潮位によって両種の分布境界が移動すると考えられています(村野, 1974)。さらに上流の霞ヶ浦にはイサザアミN. intermedia (Czerniavsky, 1882)が生息するという記述がありますが、現在ではクロとイサザは同一種と見なされます。
 でも、海跡湖のイサザアミと、これまでクロイサザアミとされてきた河川域の個体群では、おそらく遺伝的交流は絶たれているだろうから、系群としては別になるのではないかと思います。いかがでしょうか



[参考文献]
1)福岡弘紀.2004.アミ類の保育と取り込み行動.海洋と生物,152:221-224.
2)花里孝幸.1998.ミジンコ:その生態と湖沼環境問題.230 pp.名古屋大学出版会,愛知県.
3)村野正昭.1974.あみ類と近底層プランクトン.In丸茂隆三編,海洋プランクトン,海洋学講座10.pp.111-128.東京大学出版会,東京.