カマキリヨコエビ

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 パラ・ペツ様からのリクエストがありましたので、造巣性のヨコエビ類について、ちょこっと紹介します。


 この写真、ムシャカマキリヨコエビ Jassa marmorata Holmes, 1903といいます。

 20年近く前に、ぼうずコンニャク氏からいただいた標本です。後にも先にも、ここまで見事なフォルムのカマキリヨコエビのオスを観たことがありません。ワカメのメカブからとれたものと伺ったような気がします。(あとで記録を当たってみます)


 ヨコエビ類っていうのは、磯遊びで石をひっくり返すと、わらわらと裏側に逃げ込む小さな小エビのようなカギメリタヨコエビMelita koreana Stephensen, 1944とか、海浜で打ち上げられたゴミをどかすとぴょんぴょんと跳びはねるヒメハマトビムシPlatorchestia crassicornis (Derzhavin, 1937) などの類です。

 世界から約6000種、日本からは320種が知られています。


 潮間帯に棲むアリアケドロクダムシCorophium acherusicum Costa, 1853やムシャカマキリヨコエビJassa marmorata Holmes, 1903など、ドロクダムシ科やカマキリヨコエビ科などの種類に、造巣性で、底質でチューブ状の棲管を造るものが知られています(樋渡, 1998)。河口の泥干潟の表面をみると、ドロクダムシの小さな棲管を観察することができます。
 ホソツツムシCerapus sp.では棲管ごと遊泳する行動が観察されています。論文には図がでているのですが、巣から長い触角を出して、これを羽みたいに羽ばたかせて遊泳するようで、想像するだけでもユーモラスです。


表 本邦産管棲ヨコエビ類の代表種
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ドロクダムシ科
   アリアケドロクダムシCorophium acherusicum Costa, 1853
   トゲドロクダムシCorophium crassicorne Bruzelius, 1859
   トンガリドロクダムシCorophium insidiosum Crawford, 1937
   タイガードロクダムシCorophium kitamorii Nagata, 1965
   トミオカドロクダムシCorophium lamellate Hirayama, 1984
   ウエノドロクダムシCorophium uenoi Stephensen, 1932
   ニホンドロクダムシCorophium volutator japonica Hirayama, 1984
   ホソツツムシCerapus sp.
   モバソコトビムシEricthonius brasiliensis (Dana, 1853)
   ホソヨコエビEricthonius pugnax (Dana, 1852)
イシクヨコエビ
   クダオソコエビPhotis longicaudata (Bate & Westwood, 1863)
カマキリヨコエビ
   ムシャカマキリヨコエビJassa marmorata Holmes, 1903
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                               (樋渡, 1998)を加筆・修正


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 表題のカマキリヨコエビについて少々(ちょっと小難しい話し)

 日本産の種類はかってJassa falcata (Montagu, 1808)とされていましたが、Conlan(1990)による、世界のカマキリヨコエビの見直しによって、この種類は日本には分布しないことがわかりました。本種は現在では北大西洋東部の極域に分布する種とされているようです。

 この論文には、日本産の種類3種が掲載されています。

Jassa marmorata Holmes, 1903 ムシャカマキリヨコエビ
   国内の産地:石川県、忍路湾・厚岸湾(北海道)、Petrov Island(日本海
   分布域:凡世界的に分布(南緯60°から北緯60°内)
Jassa morinoi Conlan, 1990 モリノカマキリヨコエビ
   国内の産地:忍路湾(北海道)、田辺湾和歌山県
   分布域:凡世界的に分布(南緯60°から北緯60°内)
Jassa slatteryi Conlan, 1990 フトヒゲカマキリヨコエビ
   国内の産地:厚岸湾(北海道)、田辺湾和歌山県)、韓国南部(日本周辺産地)
   分布域:凡世界的に分布(南緯60°から北緯60°内)

 和名は Ishimaru(1994)によるものです。「原色検索日本海岸動物図鑑(II)」では、J. slatteryiに和名「カマキリヨコエビ」を採用しています。

 なお、日本産のカマキリヨコエビをはじめにJassa falcata と同定したのは、入江(1958)で、長崎産の標本をもとに報告されたもののようです。





1)Barnard, J. L. & Karaman, G. S. 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). Records of the Australian Museum, Supplement, 13(Part 1 & 2): 1-866.
2)Conlan, K. E. 1990. Revision of the crustacean amphipid genus Jassa Leach (Corophioidea: Ischyroceridae). Canadian Journal of Zoology, 68(10): 2031-2075.
3)平山 明.1995.ヨコエビ亜目.In西村三郎編,原色検索日本海岸動物図鑑(II),pp.172-193.保育社,大阪.
4)樋渡武彦.1998.付着生物群集としての端脚類.付着生物研究,14(2):25-32.
5)入江春彦.1958.浮遊性端脚類の出現種並びに重要種の生態. in 水産庁対馬暖流開発調査報告書,1輯,pp. 138-145.
6)Ishimaru, S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfirellidean Amphipoda recorded from the Vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29-86.
7)Morino, H. 1975. On two forms of Cerapus tubularis, a tube dwelling Amphipoda, from shallow waters of Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 23(1/2): 179-189.
8)Onbe, T. 1966. Observation on the tubicolous amphipod, Corophium acherusicum Costa, in Fukuyama harbor area. Journal of the Faculty of Fisheries and Animal Husbandry, Hiroshima University, 6: 323-338.