相模川のケンミジンコ

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 相模川で採集したケンミジンコです(関連ページ:↓)
http://blogs.yahoo.co.jp/yevicanidaisuki/15024663.html
 散々悩んだのですが、現時点ではAcanthocyclops sp.としておきます。大小数個体が採集されています。

 観察標本(成体雌)の特徴は以下のとおり;
①体長(前体部前端から尾叉末端まで)1.77mm。
②第5胸脚は2節からなる。
③同第1節は第5胸節から分離し、幅広く、1長刺毛を備える。
④同第2節は、末端付近に1長刺毛と1小棘を備える。
⑤第4胸脚内肢第3節末端には2棘がある。これらはほぼ等長で、第4胸脚内肢第3節の58%の長さに相当。
⑥同節は内縁に2刺毛、外縁に1刺毛を備える。外縁刺毛は内縁の末端側の刺毛よりも幾分末端側に位置する。
⑦尾叉はやや長く、基部幅の1.4倍。
⑧尾叉末端中央の2長刺毛には、棘状毛ではなく羽状毛を備える。
⑨第1触角は比較的短く、頭胸部末端に達しない。

 最初、図鑑を調べていてAcanthocyclops vernalis (Fischer, 1853)ではないかと思っていました。大変よく似ています。
 この種は幾つかの図鑑に掲載されています。

●Acanthocyclops vernalisの主な掲載図鑑等;
伊藤 隆[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.481, No.517.
水野寿彦[日本淡水動物プランクトン検索図説], 1991, p.31, No.24.
沈嘉瑞・水野寿彦[中国/日本 淡水産橈脚類], 1984, p.404, fig.211, p.591, fig.335.
石田昭夫[日本産淡水ケンミジンコ図譜], 2002, p.54, no.33, fig.24a-i 日本生物地理学会会報,57.

 実際、「中国/日本 淡水産橈脚類」の検索を追っていくと、A. vernalisに同定されます。
 ですが、この図鑑の図211と比較しますと、本標本では第1触角が長く(上記特徴⑨)、第4胸脚内肢第3節の内外縁の刺毛の位置関係(⑥)にも違いが見られました。
 種内変異の可能性も否定できませんが、これだけ大きな違いは、別種である可能性のほうが大きいように思います。


 また、石田先生のモノグラフ「日本産淡水ケンミジンコ図譜」には、Acanthocyclops robustus (Sars, 1864)という種類が掲載されていて、A. vernalisと同所的に出現すると記されています。両種の違いについて、A. robustusでは尾叉端末刺毛中2本に短い棘状の毛を持ち(A. vernalisでは長い羽状毛)、第4脚内肢第3節と外肢第3節のそれぞれの刺毛が一部棘を備える(A. vernalisでは普通の毛)と記されています。
 今回の相模川の本標本は、尾叉端末刺毛中2本が長い羽状毛で(上記特徴⑧)、どちらかといえばA. vernalisに近いようです。

 分布域は両種とも、北海道から本州中部とされています。


 なお日本には、これらの他に4種のAcanthocyclops属カイアシ類がいますが、これらは地下水性で、メスの第4胸脚内肢第3節末端には1棘しかない(A. vernalisとA. robustusでは2棘)そうです。

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