タルマワシと樽

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謹賀新年
本年もよろしくお願いいたします。

               平成22年元旦
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オオタルマワシPhronima sedentaria (Forskal, 1775)というプランクトンと、彼女が入っていた(と思われる)ハウスです。
タルマワシ類は、クラゲ様のプランクトン性ホヤ類(ウミタル類、サルパ類、ヒカリボヤ類)を利用してハウスを造ります。
本種では、ハモンサルパIhlea punctata、トガリサルパSalpa fusiformis、ホンヒメサルパThalia democratica、ヒカリボヤPyrosoma atlanticumが宿主として報告されています(Madin & Harbison, 1977; Laval, 1980)。

オオタルマワシはそれほどレアな種類ではなく、海洋プランクトンとして1 cmくらいのモノをけっこう普通に見かけます。
が、今回撮影した彼女は、ノルパックネットで採集されたモノとしては、かなり大きい個体です。
同時にハウスも入ってました。
(当ブログのトップにある写真は、大型ネットで採集されたさらに大型の個体です)

このハウス、かなり丈夫なつくりで、水から出しても形がくずれません。プランクトン性ホヤ類は水から出すとペチャンコです。タルマワシが加工を施しているようです。
オオタルマワシは普通に見るのですが、ハウスはめったに見ません... すべてのタルマワシがハウスに入っているわけではないのかも知れませんネ。

ハウスに入ったオオタルマワシは、ゆっくりと回転しながら遊泳するそうです。ハウスから出すと、泳ぎは大変下手だそうです。研究者の方のお話を聞くと、クラゲノミ類はみな泳ぎは下手だそうです。プランクトンなのに....

あと、いろいろと画像探していくと、ハウスの内壁に卵を産み付けたものやコロニー状にかたまった幼体の群れを見かけることがあります(幼体は700個体以上になることがあるそうです)。他のクラゲノミ類でも、たとえばヘラウミノミなんか宿主といっしょに採集され場合、孵化幼生を多く含んでいることがあります。

ハウスって浮き輪件、保育所のようです。


「深海生物」として紹介されることもあります。深海にもいますが、けっこう浅い海域からでも採集されます...
Net見てると、新・江ノ島水族館や美ら海水族館で飼育展示しているというサイトもヒットします。
ツラガマエが「深海生物顔」なので、興味をそそるのかも知れません(飼育員が!!)

http://www.enosui.com/history.php?category=5
http://www.kaiyouhaku.com/churaumidayori/archives/2009/06/
http://www.kaiyouhaku.com/news/09060901_01_info.html

観客の反応ってどうなのでしょうか? もちろんNob!!なら大喜びです(^_^)v


ちなみに、深海生物としてこんな動画がありました;
http://www.youtube.com/watch?v=Ttxz8KfigmY


●主な掲載図鑑等;
Shih, 1969, p.10.
入江春彦[原色動物大図鑑(検法, 1961, p.121, pl.60, No. 9.
入江春彦[新日本動物図鑑(中)], 1965, p.573, No.831.
山路 勇[日本海プランクトン図鑑], 1966, p.390, pl.121, No.10.
西村三郎[学研生物図鑑水生動物], 1981, p.96, 216.
武田正倫[原色甲殻類検索図鑑], 1982, p.233, No.694.
Vinogradov, et al. [Hyperiid Amphipods of the World Ocean], 1996, p.415(原露著p.338), fig.178.
永田樹三[日本産海洋プランクトン検索図説], 1997, p.1151, pl.26, 27, No. 76.

Nob!!は海岸に生きたまま打ち上がっていたのを拾ってきて、顕微鏡で観察したことがあります。



ところで、
Google やYahooで「タルマワシ」を検索すると、まったく別の生きもの(ヨコエビの仲間)がかなりヒットします。
どうやらダイバーさんの間で、バリ島に生息するカラフルなヨコエビの一種を、「タルマワシ」と呼称しているようです。ホヤやウミトサカについているようです。
この種類について何か御存知な方がいらっしゃいましたら、是非コメント下さい。

たとえばこんなサイト↓
http://wiki.livedoor.jp/yellowscuba/d/%A5%AA%A5%AA%A5%BF%A5%EB%A5%DE%A5%EF%A5%B7



・・・●・○・●・・・

2010年7月4日、やも様から情報を寄せていただきました。やも様、感謝です。
「Cyproideaで検索するとこのヨコエビの画像がヒットします」とのこと。
で、検索していくと、どうやらバリ島のヨコエビはCyproidea hopalacという種類のようです。
また”lady bug”(テントウムシ)っていう愛称もあるとか。

ちなみにこの属はホテイヨコエビ科Cyproideidaeに所属します。

ということで、タルマワシではあんまりですから、
「バリノホテイヨコエビ」とか「テントウヨコエビ」、「ウミテントウ」なんていかがでしょう?
(あくまでもシャレです。まに受けないで!)


・・・●・○・●・・・
加筆:2010年7月10日。

Kamaka様から重要な情報をお寄せいただきました。
バリ島などでタルマワシと呼ばれているヨコエビは、ホテイヨコエビ科Cyproideidaeであるのはほぼ間違いないですが、"Cyproidea hopalac"という種は存在しないとのことです。おそらく、正式名ではなく、仮称ではないかとのこと。
なお、インドネシアから報告されているホテイヨコエビ科は2種で、Cyproidea ornataがモルッカ島(Ledoyer, 1979)とジャワ島(Ortiz et al., 1999)から、Paracyproidea dixoni Moore, 1992がバリ島から報告されています。
後者の図を見ると、眼が非常に大きいところがよく似ており、生時の体色として「眼は鮮やかな赤、体は白色で顕著な黒い斑紋がある」、生態として「雲のような群を作って泳いだり、房状のヒドロ虫、小型海藻、ヤギ類、コケムシ類やソフトコーラルに付着する」と書いてあり、"Cyproidea hopalac"はParacyproidea dixoniにほぼ間違いないと思いますとのことです。なおこの種の原記載の論文はJournal of Natural History, 26, 373-381.に載っているそうです。

7月4日の記述は、web情報を過信しすぎた、ろくに吟味もしていない軽率な内容でした。Kamaka様の御進言に感謝するとともに、ブログ運営、情報発信についての姿勢を改めていかなくてはならないと、深く反省いたしました。

当ブログの不備や間違いにお気付きの方がいらっしゃいましたら、是非御教示いただきたく、よろしくお願いいたします。





    ○・○  何か書きたりないです。あとで加筆しよっと!  ○・○ 
    分かり難いところあったら御指摘下さい。修正いたしますのでm(__)m



[引用文献]
1)Harbison, G. R., Biggs, D. C. & Madin, L. P. 1977. The associations of Amphipoda Hyperiidea with gelatinous zooplankton-II. Associations with Cnidaria, Ctenophore and Radiolaria. Deep-Sea Research, 465-488.
2)Laval, P. 1980. Hyperiid amphipods as crustacean parasitoids associated with gelatinous zooplankton. Oceanography and Marine Biology: an Annual Review, 18: 11-56.
3)Madin, L. P. & Harbison, G. R. 1977. The associations of Amphipoda Hyperiidea with gelatinous zooplankton-I. Associations with Salpidae. Deep-Sea Research, 449-463.
4)齋藤暢宏.1996.三保海岸に打ち上げられたオキアミ類と数種の小型甲殻類.伊豆海洋公園通信,7(6): 2-6.
5)Shih, C. T. 1969. The systematic and biology of the family Phronimidae (Crustacea: Amphipoda). Dana Reports, 14(74): 1-100.
6)青木優和.2003.フクロエビ類は子煩悩:保育嚢をもつ小さな甲殻類.in朝倉彰編,甲殻類学:エビ・カニとその仲間の世界.pp.31-52.東海大学出版会,東京.