小粒虫

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多摩川下流域(河口域)で採集したコツブムシ類です。倒木にあいた無数の孔の中にいました。
「コツブムシ類の1種」として報告されていた種類だと思います(西・田中, 2006)。そのまんまの種名のように思われるでしょうが、深い意味があるのですよ。解説には「イワホリコツブムシと類似するが、外部形態において若干の差異があり、分類学的研究を継続している」とあります。
http://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/nhr/27/27_77_80.pdf

コツブムシ科等脚類は、丸くて、小さくて、かわいらしい甲殻類なのですが、Nob!!はまだちゃんと勉強したことがありません。なので、この機会に勉強しました(なんて言っても、図鑑を読み返した程度ですm(__)m)。

コツブムシ科等脚類は、第4・第5腹肢の特徴によって3つの亜科に分類されます。

・シオムシ亜科Cassidininae:第4・第5腹肢は横向きのシワを欠く
・コツブムシ亜科Sphaeromatinae:第4・第5腹肢は内肢にのみ横向きのシワがある
・ウミセミ亜科Dynameninae:第4・第5腹肢は内・外肢に横向きのシワがある

今回採集されたのは、(まだ、ちゃんと見たわけではないですが)コツブムシ属Sphaeromaの種類と思いますので、コツブムシ亜科をもっと詳しく見てみますと、

A.腹尾節後端は円く、特別な突起も湾入もない・・・・C
-.腹尾節後端には突起か湾入がある・・・・B
B.腹尾節後端は中央の突出部によって左右に分離された切れ込みをもつ・・・・ニホンコツブムシ属Cymodoce
-.腹尾節後端は中央に1個の湾入をもつ・・・・シリケンウミセミ属Dynoides
C.顎脚ヒゲの第2~第4節の内縁が葉状に広がる・・・・D
-.顎脚ヒゲの第2~第4節の内縁は広がらない・・・・コツブムシ属Sphaeroma
D.体は平たい。第1触角基部は拡大する。腹尾節は亜三角形.尾肢の外肢は小さく、内肢外縁のクボミに収まる・・・ハバヒロコツブムシ属Chitonosphaera
-.体はやや厚い。第1触角基部は通常の形。腹尾節は台形から半円形.尾肢の外肢は内肢と独立している・・・イソコツブムシ属Gnorimosphaeroma

日本産のコツブムシ属は、これまで6種が報告されているようです。このうち全国に分布するのはヨツバコツブムシとナナツバコツブムシのみ。ほかはローカルな種類です。なおかつ、このうちの3種は、今世紀になってから発見された、非常に新しい種類です。とすると、これからも新種が見つかるのかもしれませんネ。


 Sphaeroma mukaii Nunomuar, 2006ヒガタコツブムシ
   分布:西表島(沖縄)
◆Sphaeroma retrolaevis Richardson, 1904 ヨツバコツブムシ
   分布:太平洋・日本海岸産.自由生活または海中木材に穿孔
.Sphaeroma shimantoensis Nunomuar, 2003シマントコツブムシ
   分布:四万十川(四国)
ぁSphaeroma rotundicaudum Nunomura, 2008 マルオコツブムシ
   分布:志々伎湾(長崎)
ァSphaeroma sieboldii Dollfes, 1888 ナナツバコツブムシ
   分布:北海道より九州にわたる汀線.石の下,凝灰岩または木材に穿孔
ΑSphaeroma wadai Nunomura, 1994 イワホリコツブムシ
   分布:田辺湾内および富田川河口域(和歌山)

ナナツバコツブムシにいたっては、高生息密度で営巣活動を行うため、島を浸食し、島が消滅する危険にあるといった研究報告がなされています。瀬戸内海のホボロ島広島県東広島市安芸津町沖)は、昭和30年代は最高地点で約22mの高さがありましたが、現在では干潮時でも6mに過ぎず、100年後には島自体が消滅してしまうとも言われているそうです。これは広島大学・沖村雄二名誉教授らが調査した結果で、世界的にもめずらしい現象だそうです。平成18年5月からの調査で、12cm四方・厚さ5cmの岩石のなかから80匹が確認され、島全体では、数百万匹から数千万匹も生息していると推定されています。このことは新聞やテレビなどで報道されたそうです(『虫に食べられ、あと100年で消滅…広島・ホボロ島』(2007年11月27日読売新聞)。Nob!!は知りませんでした...汗

ナナツバコツブムシとイワホリコツブムシについては、穿孔能力についての研究が行われています(村田・和田, 2000)。この論文、あとで読み返して、概要を追記いたします(いつの事やら...)




[参考文献]
1)西栄二郎・田中克彦.2006.多摩川河口域川崎市側の干潟における底生動物相.神奈川自然誌資料,27:77-80.
2)Nunomura, N. 2003. A new species of the genus Sphaeroma (Crustacea: Isopoda) from the mouth of the River Shimanto, Kochi, Shikoku, southern Japan. Bulletin of the Toyama Science Museum, 26: 47-50.
3)Nunomura, N. 2006. A new species of the genus Sphaeroma (Isopoda: Sphaeromatide) from Iriomote Island, Okinawa, southern Japan. Bulletin of the Toyama Science Museum, 29: 7-11.
4)Nunomura, N. 2008. Marine isopod crustaceans collected from Sijiki Bay, western Japan (1) Valvifera, Cymothoida, Sphaeromatidea, Limnoriidea and Oniscidea. Bulletin of the Toyama Science Museum, 31: 13-43.
5)村田優子・和田恵次.2000.潮間帯に生息するコツブムシ科穿孔性等脚類の分布に関する要因.日本ベントス学会誌,55:25-33.
6)椎野季雄.1944.木材穿孔性海産甲殻類に関する研究供ダ﨧性コツブムシ亜科半鰓類(Sphaerominae: Hemibranchiatae)四種に就いて. 資源科学研究会報,7:1-20.
7)椎野季雄.1950.海産穿孔性甲殻類.In中村健児編,現代生物学の諸問題.pp. 462-498.増進堂
8)Shiino, S. M. 1957. The marine wood-boring crustaceans of Japan (Sphaeromidae and Cheluridae). The Wasmann Jounal of Biology, 15(2): 161-197.