ノープリウス

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節足動物の中で甲殻類を特徴づける形質の1つに「発生初期にノープリウス幼生期を経る」というものがあります。
基本的にはノープリウス幼生で孵化するということです。ですが実際には卵のなかでノープリウス期を経過してしまい、もっと発達した幼生期で孵化するものが大半で、ノープリウス幼生で孵化するのは、枝角類以外の鰓脚類、一部の介形類、かいあし類、鞘甲類、オキアミ類、根鰓下目十脚類くらいです。


ノープリウス幼生は、卵型の体に、3対の遊泳肢と上唇を備えただけの単純な形をした生き物で、「これが甲殻類?」って感じです。一見するとダニのようにも見えます。

この3対の遊泳肢は、将来、第1触角、第2触角、大顎へと成長するもので、形態学的には「頭部付属肢」といいます。甲殻類の触角や口は頭部の付属肢が変化したものなのです。
ノープリウス幼生が脱皮成長していくと、次第に4対目以降の付属肢がちょっとづつ追加されていきます。
3対の遊泳肢しかもたない、もっとも基本的な形のノープリウスをオルトノープリウス、4対目以降の付属肢が生え始めたものをメタノープリウスと区別することがあります。


ノープリウス幼生は単純な形をしていて、特徴がつかみにくいのですが、各分類群の違いが、次のように整理されています(Williamson, 1982)。
1. 背甲は二枚貝様で、体は背甲内に収納される。全付属肢は単枝様 ………介形類
 - 背甲を持つ場合でも、体は背甲内に収納されない。第2触角は二叉型 ………2
2. 第1触角は第2触角の半分以下。大顎は単枝様 ………鰓脚類
 -第1触角と第2触角はほぼ等長。大顎は二叉型 ………3
3. 第2触角と大顎の基部にmasticatory spinesを備えない  ………ホンエビ類
 -第2触角と大顎の基部にmasticatory spinesを備える ………4
4. 背甲を持つ ………5
 - 背甲を持たない ………6
5. 背甲は丸く、棘を持たない ………カシラエビ類
 - 背甲は逆三角形か丸く、前側隅に1対の棘(あるいは角)を持ち、他にもいくつかの棘を備える場合がある ………鞘甲類
6. 第1触角は8節 ………ヒゲエビ類
 -第1触角は3節 ………かいあし類


写真に示したのは、プランクトンとして採集されたCalanus sinicus Brodsky, 1965(カイアシ類)のノープリウス幼生で、おそらく第6期(ノープリウス最終ステージ)と思われます。体長0.6mm。カイアシ類のノープリウス幼生としては異様なほど巨大で、大変目に付きます。


参考文献
1)椎野季雄.1964.動物系統分類学7(上).節足動物(I),総説・甲殻類.3+312 pp.中山書店,東京.
2)大石茂子.1988.甲殻類.In団 勝麿・関口晃一・安藤 裕・渡辺 浩編,無脊椎動物の発生(下).pp.51-130.培風館,東京.
3)Williamson, D. I. 1982. Larval morphology and diversity. In Abele, L. G. (ed.), Biology of Crustacea, 2: 43-110.