カラヌス・シニカス

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海産浮遊性ケンミジンコ類(カイアシ類)にCalanus sinicus Brodsky, 1965という種類がいます。

沿岸域の動物プランクトンとしては、割と大型で、比較的普通に採集されるのですが、「ザ・カイアシ類」といわんばかりに均整のとれた美しい種類で、お気に入りの1種です。

「ヒダリアシナガカラミジンコ」っていう和名が提唱されたこともあるのですが、全然定着していませんね(^_-)


カイアシ類は雌雄異体で、ノープリウスという甲殻類特有の初期幼生として孵化。6ステージを経た後、コペポダイト(コペポディットともいう)期という成体に似る未発達な状態の幼体へと成長します。コペポダイトは5期を経て6期目が成体です。

成体をコペポダイト第6期と表現します。カイアシ類を勉強しはじめの頃は違和感をもっていましたが、コペポダイトを幼体と考えるためにモヤッとしていたんでしょうね。

ノープリウス幼生のステージをNI~NVI、コペポダイト期のステージをC1~CVIと表現することがあります。オス・メスの違いはCVIではっきりします。


甲殻類には、生涯脱皮成長しつづけるものもいますが、カイアシ類などでは一生のうちに脱皮する回数がきまっているというのにも感心しました。なんか昆虫っぽいと思いませんか?


カイアシ類は脱皮成長しながら、体節数や付属肢が増していきます。カラヌスを例にしますと、下記のような成長となります。

  NI:遊泳用3肢以外の付属肢原基を欠く。第1触角の末端刺毛が多くは3本。
  NII:第1触角の末端刺毛が多くは4本。
  NIII:第1小顎の単叉型原基を生じる。後体部末端に2対の棘。
  NIV:第1小顎は二叉型。胸肢原基を欠く。
  NV:第2小顎を生じる。
  NVI:2対以上の胸肢原基を生じる。
  CI:後体部は2節で、胸脚は2対。
  CII:後体部は2節で、胸脚は3対。
  CIII:後体部は2節で、胸脚は4対。
  CIV:後体部は3節で、胸脚は4対。
  CV:後体部は4節で、4対の完成した胸脚と、未完成な5対目を備える。
  CVI:雌雄の違いが完成し、オスは後体部が5節、メスは4節で生殖節が完成する。胸脚は5対。

プランクトンをみているといろんなステージのカラヌスのコペポダイトがみられます。コペポダイトは形態的な成長とともサイズも段階的に成長するので、大きさってのもステージ決定のカギになります。
ノープリウス幼生もいろんなステージが採集されているのでしょうが、まだキチンとみたことはありません。
ただ、カラヌスのノープリウス幼生は、ほかの種類のノープリウス幼生よりも格段にデカいので、かなり眼をひきます。

また、寄生性のカイアシ類では、ノープリウス幼生6期+コペポダイト6期の基本を逸脱し、ステージの短縮化がみられます。早く成長して宿主にたどり着くための適応なんでしょうね。



参考文献
1)Campbell, M.H. 1934. The life history and post embryonic development of the copepods, Calanus tonsus Brady and Euchaeta japonica Marukawa. Journal of the Biological Board of Canada, 1(1): 1-65, figs. 1-18.
2)Izawa, K. 1987. Studies on the phylogenetic implications of ontogenetic features in the poecilostome nauplii(Copepoda: Cyclopoida). Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 32(4/6): 151-217.