アリマ?

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これはシャコ類の浮遊幼生です。プランクトンとして採集されました。
おそらくはシャコOratosquilla oratoria (De Haan, 1844)の幼生でしょう。


プランクトンの研究者はシャコ類の幼生を一括して「アリマ幼生alima」って呼びます。ですが、シャコ類の研究者はこの名前を今は使いません。ある先生に聞いたところ、「アリマはもう死語だよ」って教えていただきました。

かって、シャコ類の浮遊幼生期は、アンチゾエアantizoeaとプソイドゾエアpseudozoeaの2型に区別されていました。アンチゾエアはトラフシャコ科の幼生で、第1触角が非分叉型、胸部は8節に分節、分叉型の5対の小型胸肢が発達し、短い腹部は分節不明瞭で無肢。プソイドゾエアはシャコ科やフトユビシャコ科などの多くの口脚類に見られる幼生で、第1触角は分叉型、胸部は分節しても、第1・第2捕脚のみが発達、腹部には4~5対の腹肢を備えています。アンチゾエアが成長すると、尾節両縁に1個の中間棘をもつエリクタスerichthusとなり、プソイドゾエアが成長すると、尾節に4以上の中間棘が発達し、アリマalimaとなります。
 しかし実際にはそれぞれの中間型が多く存在するため、最近では「口脚類幼生」として区別しない傾向にあるということなのです。


シャコの幼生期O. oratoria は、飼育研究によって11期が確認されていています。生後36~39日で、頭胸甲長3.55 mm(体長16.42 mm)の第1稚シャコとなります。浮遊幼生の各ステージは以下のような特徴によって区別されます;
I:頭胸甲長0.51 mm(0.44~0.56 mm)。頭胸甲は丸く、卵黄を多く含む。腹側歯ventrolatelal toothは1歯。第3~第8胸脚と第5腹肢、尾肢を欠く。腹尾節はJ:0+K:4+L:12(11-13)歯を備える(J:lateral denticlesの数,K:intermediate denticlesの数,L:submedian denticlesの数)。
II:頭胸甲長0.63 mm(0.60~0.64 mm)。頭胸甲の腹側歯は3歯。腹尾節は0+4+13(13-14)歯を備える。
III:頭胸甲長0.92 mm(0.87~0.96 mm)。頭胸甲は四角形。腹側歯は約4歯。微小な単叉乳頭状の第5腹肢原基を生じる。腹尾節は0+4+13(12-14)歯を備える。
IV:頭胸甲長1.25 mm(1.16~1.35 mm)。第5腹肢原基は少し大きくなる。
V:頭胸甲長1.97 mm(1.65~2.38 mm)。頭胸甲は三角形。腹側歯は約5歯。第5腹肢原基は二叉型になる。腹尾節は0+5+13歯を備える。
VI:頭胸甲長2.94 mm(2.00~3.62 mm)。頭胸甲は伸張する。腹側歯は約9歯。微少な第3・第4胸脚の乳頭状原基を生ずる。第5胸脚は瘤状の原基として生じる場合もある。尾肢も微少な原基として出現する。腹尾節は1+6(5-7)+20(20-21)歯を備える。
VII:頭胸甲長3.71 mm(2.84~4.41 mm)。第3・第4胸脚原基は伸張し、第5胸脚原基も明瞭な乳頭状に出現する。微小な乳頭状の第6~第8胸脚原基を生じる。尾肢原基も明瞭な二叉型となる。腹尾節は1+7(6-8)+21(19-24)歯を備える。
VIII:頭胸甲長4.63 mm(4.00~5.90 mm)。頭胸甲の腹側歯は約11歯。第3~第5胸脚は伸張する。第6~第8胸脚原基は二叉型となる。腹尾節は1+9(8-10)+26(23-29)歯を備える。
IX:頭胸甲長5.85 mm(5.35~6.53 mm)。頭胸甲の腹側歯は約14歯。第3~第5胸脚は分節明瞭となる。第6~第8胸脚原基は伸張する。尾肢も分節明瞭となる。腹尾節は1+9(9-10)+28(25-29)歯を備える。
X:頭胸甲長7.02 mm(6.38~8.00 mm)。頭胸甲の背中央棘median spineは縮小する。尾肢は伸張し、外肢末端は腹尾節の前側縁(基部から側歯lateral tooth)の中央を越える。腹尾節は1+10(9-10)+29(26-32)歯を備える。
XI:頭胸甲長8.13 mm(7.85~8.42 mm)。頭胸甲の背中央棘は微小となる。第6~第8胸脚は伸張して分節する。尾肢は腹尾節の側歯を越える。腹尾節は1+10+28(26-31)歯を備える。


関東以北にみられるシャコ類は多くがシャコO. oratoriaなので、沿岸プランクトンなどにみられる浮遊幼生もシャコでしょう。大型プランクトンネットなどでは時に大量に採集されることがあります。シラスに混入することも多く、これが混ざると食感が悪くなるためシラスの値段が低くなり、漁業者に嫌われています。シラス漁業者からは「カマキリ」と呼ばれています。

大阪湾では3種類のシャコ類の浮遊幼生が採集されると報告されています。

シャコ類は日本から51種が確認されていますが、最近の研究で、さらに新しい種類も見つかっています。南の方の海域に多く、こういったところで採集される浮遊幼生では、種類の特定は難しいと思われます。



参考文献
1)椎野季雄.1964.動物系統分類学7(上).節足動物(I),総説・甲殻類.3+312 pp.中山書店,東京.
2)大石茂子.1988.甲殻類.In団 勝麿・関口晃一・安藤 裕・渡辺 浩編,無脊椎動物の発生(下).pp.51-130.培風館,東京.
3)浜野龍夫.1987.シャコOratosquilla oratoriaの第1期幼生.海洋と生物,51:表紙.
4)Hamano, T. & Matsuura, S. 1987. Egg size, duration of incubation, and larval development of the Japanese mantis shrimp in the laboratory. Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries, 53(1): 23-39.
5)小西光一.2005.幼生研究のための小テクニック集(6):その他のFAQ.Cancer,14:35-38.