チチュウカイミドリガニ(外来甲殻類 1)

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チチュウカイミドリガニCarcinus aestuarii Nard, 1847のオスです。生きてました。観察会(↓)では生きているのこの1匹しかみつかりませんでした(涙)。
http://blogs.yahoo.co.jp/yevicanidaisuki/19986731.html

ワタリガニ科のカニですが、第4歩脚が普通の脚で、オール状(ワタリガニ科の特徴)にならならい特異な種類です。
英名:Mediterranean green crab。

外来種です。地中海原産で、日本では1984年(昭和59年)3月に東京湾(千葉県富津市竹岡海岸)から発見されています。
その後、しばらくは採集記録がありませんでしたが、1990年代にって東京湾では爆発的に大繁殖しました。分布域も大阪湾、洞海湾に拡大しています。

初めての発見場所を原点に、経時的に発見場所を追っていくと、本種の分布拡大速度は24.7 km/年で国内に広がっていたと計算されています。


近縁種にヨーロッパミドリガニという種類がいて、こちらも外来種として世界に蔓延しています。どちらかというとこちらの方が勢力が強く、IUCNの外来種ワースト100っていうのにも撰ばれているそうです。

チチュウカイミドリガニは甲幅に対する甲長の比がヨーロッパミドリガニよりも大きく、オスの交接器の湾曲がゆるくて直線的なことで(ヨーロッパミドリガニでは大きく湾曲し、左右が接する)、両種は区別されるそうですが、普通に交雑がおこるそうです。国内に定着しているカニ自体がその雑種の可能性もあるそうです。
(でも、「ほんとに別種?」っていう見解があったり、既知の報告にも両種の区別に混乱があるのだとか)

●今回の勉強会(↓)にて●
http://vege1.kan.ynu.ac.jp/forecast/

東京湾に限っていえば、2002年くらいからチチュウカイミドリガニの生息密度は急撃に減少しているそうです。
東京海洋大学の調査では、1990年代は毎年600個体以上のカニが採集されていましたが、2002年以降は集められる材料が300個体を下まわっているそうです。
そして、オスとメスの成熟サイズも小形化しているとのここと。

観察会を行った砂浜でも、以前はこのカニしか見られないほどウジャウジャいたそうですが、今回は生きたオス1個体と、死骸(オス)1コがみられたのみでした。
でも、以前から見てみたかったカニだったので、いちおうNob!!の目的は達成です。

・寿命は3年
・交尾・繁殖シーズンは夏から冬で、秋がピーク
・抱卵数はCW45mmのメスで10万粒くらい
・1~6月に浮遊幼生が出現し、うちメガロパのピークは3月

なお、見つけられたのは、今回の講師でもある土井先生です。さすがプロの眼は違いますね。



[参考文献]
1)風呂田利夫.2002.チチュウカイミドリガニ:冬季繁殖で汚濁海域を生き抜く.In日本生態学会編・村上興正・鷲谷いづみ監修.外来種ハンドブック.p.184.地人書館,東京.
2)風呂田利夫.2007.東京湾における外来種の生息状況.海洋と生物,170:231-235.
3)風呂田利夫・木下今日子.2004.東京湾における移入種イッカククモガニとチチュウカイミドリガニの生活史と有機汚濁による季節的貧酸素環境での適応性.日本ベントス学会誌,59:96-104.
4)池田 等.1989.東京湾チチュウカイミドリガニ.神奈川自然誌資料,10:83-85.
5)岩崎敬二・木村妙子・木下今日子・山口寿之・西川輝昭・西栄二郎・山西良平・林 育夫・大越健嗣・小菅丈治・鈴木孝男・逸見泰久・風呂田利夫・向井 宏.2004.日本における海産生物の人為的移入と分散.日本ベントス学会誌,59(1):22-44.
6)岩崎敬二・木下今日子・日本ベントス学会自然環境保全委員会.2004.日本に人為的に移入された非在来海産ベントスの分布拡散について.日本プランクトン学会報,51(2):132-144.
7)村岡健作.1996.チチュウカイミドリガニ東京湾で発見されたのはいつか.Cancer,5:29-30.
*8)鍋島靖信・日下部敬之・大美博昭・山下隆司.1997.大阪湾でみつかったチチュウカイミドリガニ.Nature Study,43(7):75-78.
9)中山聖子.2008.チチュウカイミドリガニ.In多紀保彦監修・財団法人自然環境研究センター編著.日本の外来生物.pp.222-223.平凡社,東京.
10)武田正倫・堀越伸行.1993.東京湾に定着したチチュウカイミドリガニ.海洋と生物,85:121-124.
11)田村俊一.1999.逗子市田越川で採集されたチチュウカイミドリガニ.神奈川自然誌資料,20:81-84.
12)陳 融斌・渡邊精一・横田賢史.2003.日本における外来種チチュウカイミドリガニCarcinus aestuariiの分布拡大.Cancer,12:11-14.
13)植田育男・萩原清司・崎山直夫.1997.相模湾江の島で採集されたチチュウカイミドリガニ.神奈川県自然誌資料,18:57-61.
14)渡邊精一.1995.外来種チチュウカイミドリガニ東京湾に大発生.Cancer,4:9-10.
15)渡邊精一.1997.チチュウカイミドリガニの日本への進入と繁殖.Cancer,6:37-40.

*:未収集文献