ヤシガニ

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ヤシガニBirgus latro (Linnaeus, 1767)です。

体長12 cm、体重1.2 kgに達する巨大なヤドカリです。
(写真の標本は甲長14.5cm、うち前甲長8cmです)

稚仔期には宿貝を背負いますが、成体は裸体です。
裸体生活は、体が大型化しすぎたため、利用できる宿貝がなくなったためと説明されることがありますが、なぜそういった進化の道をたどったのか...? この説明はいまいち納得していません。
外皮は硬く肥厚しています。鉗脚は左のものが右より大きいです。

ハワイ諸島与論島から南の太平洋の島々、オーストラリア沿岸、マダガスカルからアフリカ東岸までのインド洋沿岸各地の島々に分布し、日本では沖縄以南、特に八重山諸島に多いようです。

国内では最近すくなくなってきていて、環境省・鹿児島県・沖縄県によって「絶滅危惧II類(VU)」、水産庁によって「希少」というランクの希少動物に認定されています。


英名“coconut crab”というように、ココヤシの実は好物ですが、実は雑食性で、各種の木の実や、カニ、カエルなども食べるそうです。
ヤシの木に登り、実を落としたり、叩き割ってたべるというのは誇張された話のようです。
夜行性で、夜間に索餌行動を行い、餌はたいがい巣に持ち帰って食べます。


繁殖期は7~10月で、産卵数は5万1000~13万8000粒、卵径は0.6~0.7 mm。
抱卵メスはこの時期だけ海岸で海水につかり、ゾエア幼生を海中に放出します。ゾエアの期間は17~28日で、この間4~5期を経てグロコーテ期(メガロパ期)になります。
グロコーテの期間は21~28日間で、陸を目指して泳ぎ、磯では小さな宿貝を利用します。
次の脱皮で幼ガニとなり、陸上に進出します。陸上にあがったあとも、約2年半、甲長1.5 mmになるまで宿貝を利用するとする説もあります。

最近、琉球大学の藤田先生によって、グロコーテが小さな巻き貝の殻に入る様子がビデオ撮影されたり、野外で巻き貝を背負った幼ガニが確認されています。


食用種で、新鮮な身はカニのようにうまく、特においしいのはみそで、オレンジ色で濃厚な味わいがあるそうです(賞味したことはまだないです)。
写真の標本も、沖縄の国際通りの商店で食材として販売されていたものです。思いきって取りよせました。

しかし毒化しているものもあるようです。
生物毒に関する著書「フグはなぜ毒をもつのか」によれば、1935年から1969年にかけてヤシガニによる食中毒は12件報告されていて、沖縄県石垣市川平で特に多く、死者4名がでているそうです。
中毒原因物質は特定されていないが、脂溶性のものと推察されているとのことです。




[参考文献]
1)野口玉雄.1996.フグはなぜ毒をもつのか:海洋生物の不思議.221 pp.NHKブックス768,日本放送出版協会,東京.
2)武田正倫.1992.カニは横に歩くとは限らない:甲らに包まれた不思議な仲間たち.236 pp.PHP研究所,東京.
3)武田正倫.1992.ヤシガニは裸で陸にすむ.動物たちの地球,68:2・233.
4)武田正倫.1995.エビ・カニの繁殖戦略:自然叢書 27.239 pp.平凡社,東京.
5)武田正倫.1995.ヤシガニ.In(社)日本水産資源保護協会,日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(II):水産庁委託“希少水生生物保存対策試験事業”.pp.625-630,665,pl.5.東京.
6)田中裕之・諸喜田茂充・小西光一.1996.ヤシガニの餌料と成長.Cancer,5:3-6.
7)諸喜田茂充・田中裕之.1996.ヤシガニの脱皮習性.Cancer,5:7-10.