先日、“名前の言えないM様@陽気なブォルデモート卿”から、「魅惑の深海寄生虫バァリューセット！」いただきました（2015/1/20(火)）。M様、感謝です。
このセットは、熊野灘産等脚類詰め合わせで、5種類の等脚類からなっていました（もしかすると、今後も追加あるかもですが）。
そのうちの1種について観察したので、その結果をご報告。
アカムツDoederleinia berycoides (Hilgendorf,1879)（体長23.0㎝）口腔内に寄生するウオノエ類（雌30.4mm、雄14.9 mm）について観察しました。アカムツといえば、某テニスプレイヤーが好物とされる、通称“のどくろ”ですよ。
アカムツ口腔内寄生種については、Yamauchi（2009）がヒゲブトウオノエ属のソコウオノエCeratothoa oxyrhynchaena Koelbel, 1879と同定しているのですが、今回のウオノエもソコウオノエでした。
今回のメスは十分に成長し、同定の票徴となる各形質は完成していました。
①第7胸脚基節に発達した拡張部をもち；②第１胸節が大きく、前側隅は尖って突出し；③尾肢は腹尾節末端に達しない等、Martinほか（2013）によるソコウオノエCeratothoa oxyrhynchaena Koelbel, 1879の票徴を有していました。本種はKoelbel（1879）によって日本から記載されたウオノエ科で、西部太平洋から北西部大西洋、地中海等、広範囲から報告されます。
ソコウオノエの宿主魚類は7科にまたがり、複数の魚種から報告されます（表1）。寄生部位についても、口腔内以外にも鰓腔や体表からなどの記録があります。
アカムツからの記録はYamauchi（2009）が初めてとされますが、寄生虫研究者KN博士は、30年近く前に、当時おられた研究所にて学生さんと共同で、未同定種として、アカムツ寄生個体の個体群動態を研究されています。その修士論文（卒論だったかな？）をいただいているのですが、非常に豊富な知見がつづられております。
弊社の釣りキチH先生によれば、寄生率はだいたい50％とのことです。
なお、『新日本動物図鑑』に掲載されるソコウオノエ（椎野,1965）は誤同定であることが指摘されています。厳密に言えば、和名「ソコウオノエ」が学名に連動するべきかどうかについては議論が必要と考えます。
表1 既報によるソコウオノエの宿主
(タイ科Sparidae)
The bogue Boops boops (Linnaeus, 1758)
The saffronfin sea bream Dentex spariformis Ogilby, 1910
The striped seabream Lithognathus mormyrus (Linnaeus, 1758)
(サンフィシュ科Centracanthidae)
The blotched picarel Spicara maena (Linnaeus, 1758)
The picarel Spicara smaris Linnaeus, 1758
(ホタルジャコ科Acropomatidae)
アカムツDoederleinia berycoides (Hilgendorf,1879)
(マトウダイ科Zeidae)
マトウダイZeus faber Linnaeus, 1758
(トラザメ科Scyliorhinidae)
ヨーロッパトラザメScyliorhinus stellaris (Linnaeus, 1758)
(Torpedinidae)
The spotted torpedo Torpedo marmorata Risso, 1810
(ガンギエイ科Rajidae)
The starry ray Raja asterias Delaroche, 1809,
Thethornback ray Raja clavata Linnaeus,1758
＜引用文献＞
Koelbel, C. 1878. Über einige neue Cymothoiden. Sitzungsberichte derMathematisch-Naturwissenschaftlichen Klasse der Kaiserlichen Akademie derWissenschaften, 78, 401–416.
Martin, M.B., Bruce,N.L. & Nowak, B.F. 2013. Redescription of Ceratothoa carinata (Bianconi, 1869) and Ceratothoa oxyrrhynchaena Koelbel, 1878 (Crustacea: Isopoda:Cymothoidae), buccal-attaching fish parasites new to Australia. Zootaxa, 3683(4): 395–410.
椎野季雄．1965．ソコウオノエ．In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修，新日本動物図鑑（中）．p.544．北隆館，東京．
Yamauchi, T. 2009. Deep-sea cymothoid isopods (Crustacea: Isopoda: Cymothoidae) of Pacificcoast of northern Honshu, Japan. National Museum of Nature and ScienceMonographs, 39, 467–481.
